地震の「10秒間」を1秒ごとに見る — 揺れと永久変位はどう違うのか

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地震の「10秒間」を1秒ごとに見る — 揺れと永久変位はどう違うのか

地震の「10秒間」を1秒ごとに見る — 揺れと永久変位はどう違うのか

地震のとき、地面は揺れます。そして地震が終わったあと、地面は元の場所に戻りません

この2つ——「揺れ(振動)」と「永久変位」——は、日常の感覚ではひとつづきの出来事に見えます。しかし測地の世界では、まったく別のものとして扱われます。片方は数十秒で消え、もう片方はずっと残るからです。

この違いを、実際の観測データで見られる機会があります。国土地理院が公開した、電子基準点の「1秒ごとの解析結果」です。


「1秒ごと」というデータ

電子基準点の座標は、ふだん「日々の座標値」として1日1点の形で公表されます。地殻変動の監視には十分な時間分解能です。

しかし地震そのものは、数秒から数十秒の出来事です。1日1点では、地震のしか分かりません。

そこで、大きな地震のあとには1秒間隔の解析結果が公開されることがあります。2026年7月28日の令和8年熊本地震(M7.1・深さ約16km・暫定値、最大震度7)についても、国土地理院が電子基準点31点の1秒解析結果を公開しました。

データ 時間分解能 見えるもの
日々の座標値 1日 地震前後の差、余効変動、定常的なプレート運動
1秒解析 1秒 揺れの進行、永久変位が固まっていく過程

千丁で起きたこと

震央にもっとも近い電子基準点のひとつ、千丁(八代市)の1秒解析では、こういう経過が読み取れると報告されています。

  1. 地震発生とともに位置が動き出す
  2. 大きく振れながら位置が変化していく
  3. 最終的に東・北・下方向への「永久変位」が残る
  4. この変位が固まるまでに、約10秒かかった

そして日々の座標値ベースの地殻変動(第2報)では、千丁の最終的な変動は北東方向へ約87cm、約32cmの沈降とされています(第1報の時点では約84cm。解析の進行で値が更新されました)。

熊本市の城南では、大きな東西方向の揺れと、上下方向の隆起が観測されています。同じ地震でも、点によって挙動がまったく違います。


「揺れ」と「永久変位」を分けて考える

プレート運動と地殻変動の可視化

ここが、この記事のいちばん大事なところです。

揺れ(振動)

  • 地震波が通過している間だけ起こる
  • 数秒〜数十秒で収まる
  • 元の位置に戻る
  • 建物への影響を考えるときはこちらが主役(震度もこちら)

永久変位

  • 地震で断層がずれ動いた結果、地面そのものが移動する
  • 地震が終わっても戻らない
  • 測量の基準が変わるという意味では、こちらが主役

震度7という数字は「揺れ」の大きさを表します。一方、測地の世界で問題になるのは「その場所の緯度経度・標高がいくつ変わったか」、つまり永久変位のほうです。

1秒解析のデータが面白いのは、この2つが1本のグラフの中に同居して見えることです。ぐらぐら振れている部分が揺れで、振れが収まったあとにゼロに戻らず残っている量が永久変位。約10秒かけて、後者が「確定していく」わけです。


永久変位が残ると何が困るのか

地面が87cm動いたということは、そこにある三角点も、水準点も、境界杭も、道路も、同じように動いたということです。

けれど、地図やデータベースに記録されている座標値は、地震前のままです。

地震のあと座標をどう直すか — PatchJGDのイメージ

だから地震のあとには、こういう手順が必要になります。

  1. 成果の公表停止 — 地震前の座標値を、いったん使うのをやめる
  2. 観測 — 実際にどれだけ動いたかを測る
  3. 補正パラメータの整備 — 場所ごとの補正量を格子(メッシュ)の形で作る
  4. 新しい成果の公表 — 補正後の座標値を提供する

令和8年熊本地震についても、国土地理院は2026年7月29日(30日更新)に被災地域の基準点成果の公表停止を発表し、座標・標高の補正パラメータを整備するとしています。

この「地震のあと座標をどう直すか」の考え方は【クイズ解説①】地震のあと、座標はどう直す? — PatchJGDと地殻変動補正で扱っています。


補正量は場所ごとに違う

もうひとつ大事なのが、永久変位は場所ごとに向きも大きさも違うという点です。

今回の地震でも、

  • 千丁(八代市): 北東へ約87cm
  • 城南(熊本市): 北へ約40cm
  • 泉(八代市): 南へ約17cm

と、数十kmの範囲で真逆の向きに動いた点があります。断層を挟んで両側が反対向きにずれるためです。

補正量の分布をヒートマップで見る

だから「熊本県は◯cm動きました」という一律の補正はできません。GeoPrism JP のヒートマップで補正量の分布を見ると、色が場所ごとに細かく変わっているのが分かります。あの模様は、まさにこの「場所ごとに違う」を可視化したものです(ヒートマップの読み方)。

なお、この可視化にはベクトル倍率による誇張表示が効いてきます。数十cmの変位は、県全体を映した地図上ではほぼ点にしか見えません。見えないものを見るための仕掛けについては「見えないズレ」を見る — ベクトル倍率で座標の微小な差を誇張表示する仕組みにまとめています。


地震が終わっても、地面は動き続ける

永久変位が確定して終わり、ではありません。大きな地震のあとには余効変動が続きます。本震で一気に動いた分に続いて、数か月から数年かけてじわじわと動く現象です。

つまり座標の履歴は、

段階 時間スケール 動き方
定常的なプレート運動 常時 年間数cm、ほぼ一定の向き
地震時の永久変位 数秒〜十数秒 一気に数十cm〜数m
余効変動 数か月〜数年 減衰しながら継続

という3層構造になっています。1秒解析が見せてくれるのは、この真ん中の層——もっとも短く、もっとも大きい層です。

定常的なプレート運動のほうは日本列島は毎年動いている — プレート運動と地殻変動を可視化して学ぶ、時間と座標の関係(元期と今期)は「元期」と「今期」— 座標が時間とともに動く話を地図で学ぶで扱っています。

元期と今期 — 座標が時間とともに動く


まとめ

  • 地震では「揺れ(元に戻る振動)」と「永久変位(戻らない移動)」が同時に起きる
  • 電子基準点の1秒解析は、この2つが分かれていく過程を見せてくれる
  • 令和8年熊本地震(2026年7月28日)では、震央に近い千丁で東・北・下方向への永久変位が約10秒かけて確定したと報告されている
  • 最終的な変動は千丁で北東へ約87cm・約32cm沈降、城南で北へ約40cm、泉で南へ約17cm。向きも大きさも場所ごとに違う
  • だから補正は一律ではなく、格子(メッシュ)で場所ごとに与える必要がある
  • 地震後の座標は「定常運動 → 永久変位 → 余効変動」の3層で動き続ける

震度は「どれだけ揺れたか」、地殻変動は「どれだけ動いたままか」。同じ地震のふたつの顔として覚えておくと、ニュースの数字の意味が変わって見えてきます。


出典

  • 国土地理院「令和8年(2026年)熊本地震に関する情報」 https://www.gsi.go.jp/BOUSAI/20260728_kumamoto_earthquake.html
  • 国土地理院「令和8年熊本地震に伴う地殻変動(第2報)」 https://www.gsi.go.jp/chibankansi/chikakukansi_20260728_kumamoto_2.html
  • 国土地理院「2026年7月28日令和8年熊本地震に伴う地殻変動」 https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/20260728kumamoto.html
  • 国土地理院「令和8年熊本地震に伴う基準点成果の公表停止について」 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/R8-kumamoto-earthquake-seika.html
  • 国土地理院「令和8年熊本地震の震源断層モデル(暫定)」 https://www.gsi.go.jp/cais/topic20260728_kumamoto.html
  • 気象庁「令和8年熊本地震 ポータルサイト」 https://www.jma.go.jp/jma/menu/20260728_kumamoto_jishin.html

本記事の数値は2026年8月中旬時点の公表値(暫定値を含む)です。解析の進行により更新されることがあります。

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