海の深さはどうやって測る? — 音の速さが水温と塩分で変わるのに、海底の地形が描ける理由

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海の深さはどうやって測る? — 音の速さが水温と塩分で変わるのに、海底の地形が描ける理由

海の深さはどうやって測る? — 音の速さが水温と塩分で変わるのに、海底の地形が描ける理由

音波を海底に向けて出し、返ってくるまでの往復時間に音の速さをかけて2で割ります。 ただし海の中の音速は水温と塩分で大きく変わるので、測深と同時にその海域の水温・塩分を深さ方向に測り、音速に換算してから距離を出します。測り方を決めただけでは足りず、その日その場所の海の性質を測らないと深さが決まらない、というのが海の測量の特徴です。

100年で3段階、変わってきた

時代 方法 何が起きたか
明治・大正 錘鉛(すいえん=おもり)をロープで下ろす 計測のたびに船を止める。深い海ではおもりが横に流され、海底に届かないことも多かった
大正後期〜昭和10年 音波(シングルビーム) 音波で測る研究が始まり、昭和10年に初めて音波で測った水深が海図に採用された
昭和50年代後半〜現在 音波(マルチビーム) 海底を広範囲に測量できるようになり、現在はこの方法が主流

おもりの時代にも記録はあります。日本水路史によれば、昭和2年にグァム島南西方190海里(M)で9,818mの測深に成功したと記されています。船を止めて、1万m近いロープを下ろして、1点ぶんの深さを得る——その手間で描かれた海図から始まっています。

シングルビームには原理的な限界がありました。音波が船の真下に向かうので、測れるのは船の真下の深さだけです。船が通った線に沿って、点が1列に並ぶだけのデータになります。

マルチビームは「扇」で測る

マルチビーム測深機は、船底に装備した送受波器から海底に向けて音波を扇状に発射し、反射した音波を捉えることで広範囲の海底地形を把握します。

ポイントは、測れる幅が深さに比例することです。水深の約5倍の幅で水深を測定できます。つまり水深100mなら約500m幅、水深1,000mなら約5km幅。深いところほど、1回の航行で広く測れるという関係になります。逆に浅い海域は、同じ面積を埋めるのに何度も往復しなければなりません。

機器は深さの帯ごとに分かれています。

種類 測深範囲
深海用 1,000〜11,000m
中深海用 50〜2,000m
浅海用 0〜250m

音速が一定でないという問題

ここが海の測量のいちばん厄介なところです。音波の伝搬時間から距離を求めるには、海中の音速を精密に知る必要があります。ところがこの音速は海水の温度や塩分によって大きく変化します。

陸上の測量で使う電磁波も気温・気圧・湿度で速さが変わりますが、海中の変化幅はその比ではありません。しかも深さ方向に層をなして変わり、時間的にも空間的にも動きます。だから海上保安庁の観測では、測深・測距と並行して次の観測を行います。

  • CTD観測 — ワイヤーでつないだ機器をクレーンで海中に沈め、温度・塩分・水深を測る。精度良く測定できるが、測距中には使えない
  • XBT観測 — 投下式。比較的安価に行えるが、塩分が測れない。その前後のCTD/XCTDの結果から塩分を推定する
  • XCTD観測 — 投下式で、温度と塩分の両方が測れる

得られた深さ方向の温度・塩分プロファイルを、Del Grossoの経験式で音速度に換算します。それでも「音速は時間的にも空間的にも大きく変化していくので、その適切な推定は困難」とされ、海底の点の位置を決める上での重要な課題として扱われています。海底地殻変動観測では、海底局の位置と海中音速を同時に未知数として推定するところまでいきます。

浅いところは、空から測れる

船で近づけない浅い海域には別の手があります。航空レーザ測深です。

国土地理院の基盤地図情報(数値標高モデル)には、水部の構成点種別が4つあります。

  • 海水面 — 海面と判定された地点は、標高値を一律で -9999
  • 内水面 — 波や浮遊物で「それらしい水面の高さ」が得られた場合や、ごく浅くて水底が測れた場合はそれを採る。そうでなければ周囲の岸の標高で補間する。いずれも参考値で、精度評価の対象外
  • 海水底面/内水底面 — 浅い水底の計測が可能な機器(航空レーザ測深)を使った場合の分類。水底と一連の計測で得られた陸部のデータについて0.3m以内(RMS誤差)であることを確認し、水底部そのものの精度評価は一般に行われない

つまり「水の底」のデータは、陸のデータと同じ精度表には乗っていません。数字が入っているからといって、陸と同じ確かさで扱える値ではない、ということです。

「深さ0m」と「高さ0m」は、同じ面ではない

最後に、海の深さを読むときにいちばん効く話です。基準面とは、陸地の高さや海の深さの基準となる面のことで、潮汐に関わるものだけでも複数あります。

面 何の基準か
東京湾平均海面(TP) 標高の基準面。水準測量で使う日本水準原点はTP上24.3900mと定義されている
潮位表基準面 気象庁の「潮位表」の基準面。検潮所ごとに「平均海面下◯◯cm」と定義され、大潮の平均的な干潮面の高さ(海図の水深0mにほぼ相当)
基本水準面 海図に記載されている水深の基準面。港湾ごとに定められている
潮位の観測基準面(DL) 検潮所ごとに設定された、潮位を観測するための基準面
平均潮位(MSL) ある一定期間の海面水位の平均値

標高はTPから上へ、海図の水深は基本水準面から下へ測ります。 そしてこの2つの面は同じ高さにありません。だから同じ岸辺で「標高0m」と「水深0m」は別の高さを指します。海岸の地形図と海図を重ねたときに段差が出るのは、測り方の誤差ではなく、ゼロの位置が違うからです。

GeoPrism JP のジオイドマップ画面。新旧ジオイドの差を数値で表示している

GeoPrism JP では、楕円体高・ジオイド高・標高の関係と、新旧ジオイド・モデルの差を地図と数値で確かめられます。海側の基準面は扱っていませんが、「高さのゼロはどこか」を体で覚えるには近い題材です。

まとめ

  • 水深=往復時間×音速÷2。音速は水温と塩分で大きく変わるので、CTD/XBT/XCTDで深さ方向のプロファイルを測り、Del Grossoの経験式で音速に換算する
  • 測り方は3段階 — おもり(明治・大正。昭和2年にグァム島南西方190海里で9,818m)→ シングルビーム(昭和10年に海図採用、船の真下だけ)→ マルチビーム(昭和50年代後半〜、現在の主流)
  • マルチビームは扇形に音を出し、水深の約5倍の幅を測れる。深海用1,000〜11,000m/中深海用50〜2,000m/浅海用0〜250m
  • 浅い水底は航空レーザ測深で測れるが、水底部の精度評価は一般に行われない。水面の標高は参考値(海水面は一律-9999)
  • 標高はTPから上、海図の水深は基本水準面から下。 ゼロの位置が違うので、地形図と海図は段差を持って重なる

出典

  • 海上保安庁海洋情報部「マルチビーム測深機」(扇状の発射と広範囲の海底地形把握・水深の約5倍の幅・深海用/中深海用/浅海用の測深範囲・錘鉛による測深と昭和2年のグァム島南西方190Mでの9,818m測深・大正後期からの音波研究・昭和10年の海図採用・昭和50年代後半からのマルチビーム) https://www1.kaiho.mlit.go.jp/info/vessels/ippankokai/HL11/Equipment_list/Multi_Beem.html
  • 海上保安庁海洋情報部「海底地殻変動観測 観測のしくみ」(音速度が水温・塩分で変化すること・CTD/XBT/XCTDの使い分けとXBTで塩分が測れないこと・Del Grossoの経験式・音速度構造の推定の難しさ・海中音速を未知数として推定すること) https://www1.kaiho.mlit.go.jp/chikaku/kaitei/sgs/detail.html
  • 国土地理院「基盤地図情報サイト FAQ」Q.4-17(水部の構成点種別4種・海水面-9999・内水面は参考値で精度評価の対象外・航空レーザ測深による海水底面/内水底面と陸部0.3m以内の確認) https://www.gsi.go.jp/kiban/faq.html
  • 気象庁「潮汐・海面水位の知識 用語集」(基準面の定義・東京湾平均海面TPと日本水準原点TP上24.3900m・潮位表基準面と大潮の平均的な干潮面・基本水準面は海図の水深の基準面で港湾ごと・潮位の観測基準面DL・平均潮位MSL) https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/db/tide/knowledge/tide/yougo.html

本記事の数値・定義は2026年10月時点の各機関の公開内容に基づきます。


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