高い山の下には「根」がある? — アイソスタシーで決まる地殻の厚さと、重力異常・ジオイドの読み方

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高い山の下には「根」がある? — アイソスタシーで決まる地殻の厚さと、重力異常・ジオイドの読み方

高い山の下には「根」がある? — アイソスタシーで決まる地殻の厚さと、重力異常・ジオイドの読み方

高い山は、地表に積み上がっているだけではありません。その下に、見えている高さの4〜5倍の厚さの「根」が沈み込んでいます。地殻がマントルの上に浮かんでいるからです。標高3776mの富士山なら、ごく単純な計算で地下約17km。この「浮いている」という見方が、重力の測り方とジオイドの形を同時に説明してくれます。

氷山と同じ理屈

水に浮かぶ氷は、水面から出ている部分より水中の部分のほうがずっと大きくなります。押しのけた水の重さと氷の重さがつり合う深さまで沈むからです。

地殻とマントルでも同じことが起きています。地殻はマントルより軽いので、マントルの上に浮いた状態でつり合います。この釣り合いをアイソスタシー(地殻均衡)といいます。

厚く重なった地殻ほど深くまで沈む。だから地表で高い山になっている場所は、地下でも深くまで根を張っている——これがエアリーの考えたモデルです。

根の厚さを見積もってみる

地殻の密度を ρc、マントルの密度を ρm、山の標高を h とすると、根の厚さ t は浮力のつり合いから次のようになります。

t = h × ρc / (ρm − ρc)

代表的な値を入れてみます。

密度の組み合わせ 倍率 ρc/(ρm−ρc) 富士山 3,776 m の根 エベレスト 8,848 m の根
ρc=2.67 / ρm=3.27 g/cm³ 4.45倍 約16.8 km 約39.4 km
ρc=2.80 / ρm=3.30 g/cm³ 5.60倍 約21.1 km 約49.5 km

倍率が密度の取り方でかなり変わることに注意してください。「4〜5倍」というのは桁の感覚であって、精密な数値ではありません。実際の地殻の厚さは地震波の観測から求めるもので、この式は「なぜ厚くなるのか」を説明するための単純化モデルです。

それでも言えることははっきりしています。高さ数kmの山に対して、根は数十km。地表に見えている部分はごく一部です。

この考えは「重力がずれた」ことから生まれた

19世紀のインド大三角測量で、ヒマラヤの近くと少し離れた地点の緯度差が、天文観測(星から求める)と三角測量(地上をつないでいく)で一致しないという問題が起きました。

天文観測は鉛直線——おもりを垂らした方向——を基準にします。巨大な山塊がそばにあれば、その引力で鉛直線がわずかに山側へ引かれるはずです。ところが実測のずれは、山の質量から予想される値よりずっと小さかったのです。

説明として出されたのが、「山の下には周囲より軽い物質が深くまである」という考えでした。地表の余分な質量(山)が、地下の軽い根によって打ち消されている——アイソスタシーの発想はここから出ています。

重力の測り方に2つある理由

この話は、重力測量で使う2種類の「異常」につながります。どちらもその場所の実測重力から、理論値を引いた残りです。

補正 何をするか 係数
フリーエア補正 標高が高いぶん地球中心から遠いことだけを補正する 0.3086 mGal / m
ブーゲー補正 さらに、足元にある岩石の引力ぶんを差し引く 0.04193 × ρ mGal / m(ρ=2.67 なら 0.1120)
  • フリーエア異常は、地形の質量をそのまま残した値です。アイソスタシーが成り立っている山岳域では、山の引力と根の不足がおおむね打ち消し合うので、広い範囲で平均するとゼロに近づきます
  • ブーゲー異常は、足元の岩石を取り除いた値です。取り除いたあとに残るのは地下の構造で、軽い根がある山岳域では大きな負の値になります

「山の下が重い」のではなく「山の下は軽い」。山岳域でブーゲー異常が大きな負になることが、根の存在をいちばん端的に示しています。重力そのものが緯度と高さでどう変わるかは、重力は場所によってどれだけ違う? にまとめてあります。

ジオイドは、この質量分布を映している

ジオイドは重力の等ポテンシャル面——おおまかにいえば「重力に素直に従った海面」です。質量が集まっている場所ではジオイドが盛り上がり、少ない場所では下がります。

JPGEO2024によるジオイド高の全国分布

日本のジオイド高(楕円体面からの高さ)は、JPGEO2024 で 12.34〜52.26 m の範囲に分布します。中部山岳のあたりで高く、北へ行くほど低いという傾向があります。

ただし、この形を「山が高いから」だけで説明してはいけません。ジオイドは地下深部の密度分布、沈み込むプレート、マントルの構造など、深さの違う原因が重なった結果です。地形はそのうちの一因にすぎません。ジオイドモデルの作り方そのものは 重力で描くジオイドとハイブリッドジオイド にまとめてあります。

つり合っていないところは、いま動いている

アイソスタシーは「すでにつり合っている」状態を指しますが、自然界にはまだつり合いの途中にある場所があります。

  • 氷河が解けた地域。 厚い氷が載っていた土地は押し下げられていて、氷が消えたあとゆっくり戻っています。スカンジナビア半島やカナダで今も続いています
  • 急速に隆起している山地。 削られる速さと持ち上がる速さが釣り合っていない場所では、地表の高さが変わり続けます
  • 地震のあと。 ずれた地殻が新しいつり合いへ向かって動きます

つまり、アイソスタシーからのずれは「動いている場所」の目印でもあります。測地の立場から見ると、これは単なる地質の話ではなく、座標と標高がなぜ動き続けるのかという話につながっていきます。

押さえておくこと

  • 地殻はマントルに浮いている。高い山ほど深い根を持つ(アイソスタシー)
  • 根の厚さは h × ρc/(ρm−ρc)。密度の取り方で4〜5倍と変わるので、桁の感覚としてつかむ
  • フリーエア異常は山岳域で平均するとゼロに近く、ブーゲー異常は大きな負になる。後者が根の証拠
  • ジオイドの形は質量分布を映すが、地形だけでは決まらない。地下深部の構造も効いている
  • つり合いの途中にある場所は、いまも上下に動いている

見えている山の高さは、地下で起きていることの一部が顔を出したものです。標高という1つの数字の裏に、数十kmぶんの厚みがある——そう思って地図を見ると、等高線の見え方が少し変わります。

本記事の根の厚さは、エアリーモデルに本文の密度を入れた計算例です。実際の地殻の厚さは地震波探査などから求められるもので、地域によって異なります。

出典

  • 国土地理院「日本のジオイド2024」 https://www.gsi.go.jp/buturisokuchi/grageo_geoid2024.html
  • 国土地理院「重力測量」 https://www.gsi.go.jp/buturisokuchi.html
  • 国土地理院「日本の測地系」(標高と東京湾平均海面) https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/datum-main.html
  • 国土地理院「基盤地図情報 数値標高モデル」 https://www.gsi.go.jp/kiban/

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