潮の満ち引きはなぜ1日2回? — 引力の「差」が起こす起潮力と、海面の高さに基準面が5つある理由

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潮の満ち引きはなぜ1日2回? — 引力の「差」が起こす起潮力と、海面の高さに基準面が5つある理由

潮の満ち引きはなぜ1日2回? — 引力の「差」が起こす起潮力と、海面の高さに基準面が5つある理由

地球が1日に1回自転し、海面のふくらみが地球の両側にできるからです。 ふくらみを作っているのは月の引力そのものではなく、場所ごとに違う引力と、地球全体に一律に働く慣性力との差です。そしてこの差が、海面の高さを測る基準面が1つに決まらない理由にもなっています。

起潮力は「引力」ではなく「引力の差」

気象庁は潮汐を、約半日の周期でゆっくり上下する海面の水位(潮位)の昇降現象と定義しています。その主な原因が起潮力です。

気象庁の説明をそのまま読むと、こうなります。

  • 月や太陽が地球に及ぼす引力は、地球上の各点でわずかに異なる
  • 一方、地球の重心で引力と釣り合っている慣性力は、地球全体で一律に作用する
  • そのため地球上では力の不均衡が生じ、これが起潮力になる

ここが、よくある「月に引っぱられるから満潮」という説明と決定的に違うところです。引っぱる力だけなら、ふくらみは月の側に1つしかできません。差で考えると、月から遠い側では慣性力のほうが勝つので、反対側にもふくらみができます。だから2か所です。

気象庁はこの説明について、従来「遠心力」と表記していたものを、正確な表現とするため「慣性力」に改めたと注記しています。古い図解では遠心力と書かれていることがあります。

太陽についても、同じ理由でやや小さい起潮力が生じます。

3つの周期が、別々に効いている

潮汐の見え方は、独立した3つの周期の重ね合わせです。

周期のもと 効き方
地球の自転(1日1回) 多くの場所で1日に2回の満潮と干潮を迎える
月の公転(約1か月) 満潮・干潮の時刻が毎日約50分ずつ遅れる
月と太陽の位置関係 潮位差が大きい日と小さい日が交互に来る(大潮・小潮)

毎日50分遅れるのは、地球が1回自転し終わるまでに月が少し先へ進んでいるためです。月齢は朔(新月)から次の朔までおよそ29.5日で、この周期が3番目の効き方を決めます。

大潮と小潮——力の向きが揃うか、打ち消すか

  • 大潮:地球に対して月と太陽が直線上に重なるとき。月と太陽による起潮力の方向が重なるため、1日の満潮と干潮の潮位差が大きくなる。朔(新月)と望(満月)の頃
  • 小潮:月と太陽が互いに直角方向にずれているとき。起潮力の方向も直角にずれて互いに力を打ち消す形になり、潮位差は最も小さくなる。上弦の月と下弦の月の頃

大潮と小潮は、新月から次の新月までの間にほぼ2回ずつ現れます。

1日2回が同じ高さにならない——日潮不等

ここが「1日2回」の但し書きです。気象庁の用語集は日潮不等をこう定義しています。

通常1日2回ずつ現れる満潮または干潮の潮位が一致せず、著しく異なるような現象。月の公転軌道面と地球の赤道面とが一致せず、ある角度をもっているために起こる。

そして——

日潮不等が極端になると、1日に1回しか満潮と干潮が現れなくなることがある。

軌道面が傾いているので、ふくらみの2か所は赤道に対して非対称な位置にできます。自転で同じ緯度を1日に2回通っても、通る場所がふくらみの中心から等距離ではない。だから2回の高さが揃いません。

潮位は計算できる——分潮という分解

潮位があらかじめ表にできているのは、起潮力を周期ごとに分解できるからです。気象庁の用語集によれば、分潮とは起潮力を三角関数の和として表したときの個々の周期変動のことで、主要なものは4つあります。

分潮 名前
M2 主太陰半日周潮
S2 主太陽半日周潮
K1 日月合成日周潮
O1 主太陰日周潮

そして、気象庁の天文潮位は、この主要4分潮を含む60の分潮を使用して計算されています。

「天文潮」は月や太陽の起潮力によって生じる海面の昇降で、実際に観測される潮位は、天文潮に気圧や風など気象の影響が加わったものです。その差が潮位偏差で、台風時の高潮は気圧降下による吸い上げ効果と風による吹き寄せ効果で説明されます。

つまり、計算で出せるのは天体の寄与までです。残りは天気の話になります。

本題——海面の高さに基準面が5つある

潮が上下するなら、「海面」をどこに置くかは決めなければなりません。気象庁の用語集に並んでいる基準面を、使い道で並べ替えるとこうなります。

基準面 何のための面か 決め方
潮位の観測基準面(DL) その検潮所で潮位を読むための面 検潮所ごと。観測値が負にならないように設定
平均潮位(MSL) 一定期間の海面の平均 1年や5年の平均が多い
東京湾平均海面(TP) 標高の基準面 日本水準原点はTP上24.3900mと定義
潮位表基準面 気象庁の潮位表の基準 検潮所ごとに「平均海面下##cm」。大潮の平均的な干潮面の高さ
基本水準面 海図の水深の基準面 港湾ごとに定められている

5つあるのは、面ごとに守りたいものが違うからです。

  • 標高は国土全体で1つに揃えたいので、1か所の平均海面(TP)に全部をつなぐ
  • 海図の水深は船が座礁しないほうへ寄せたいので、低い側の面を基準にする
  • 検潮所の生の読みはマイナスが出ると扱いづらいので、十分低いところに面を置く

ここで、気象庁の用語集が潮位表基準面について「海図の水深0mにほぼ相当」と書いているのが効きます。海図の水深0mが低めに取られている理由は、潮汐そのものにあったわけです。大潮の干潮の平均という、めったに下回らない高さを0mに置いている。

防災気象情報で使われる潮位は「標高」で表されますが、島嶼部など一部では国土地理院による高さの基準面、あるいは平均潮位(MSL)が用いられます。離島で基準が変わるのは、東京湾の平均海面を水準測量でつなげないからです。

楕円体高・標高・ジオイド高の関係を断面図で示した図

測る場所——検潮所

潮位を観測する施設は検潮所で、検潮小屋・検潮井戸・導水管・検潮儀・水準標石などで構成されます。験潮場、験潮所、水位観測所とも呼ばれます。呼び名が複数あるのは、観測している機関が複数あるためです。

観測値は生のままでは使いません。周期が約3時間までの成分(副振動・津波・波浪)を数値フィルターで除いた平滑値が、毎時潮位や月・年の統計値に使われます。波浪など周期3分までを除いた3分平均値は、副振動・津波・高潮の記録に使われます。

季節でも動く

潮位には季節変化があります。気象庁は「日本の多くの沿岸では夏から秋にかけて潮位が高くなる」としつつ、地域によって傾向に差があると書いています。

年平均潮位は各月の月平均潮位の平均、5年平均潮位は当年を含む前5年間の月平均潮位の平均——と、平均の取り方まで定義されています。基準面を「平均海面」と呼ぶとき、その平均が何年ぶんなのかは、決して自明ではありません。

まとめ

  • 1日2回の満干潮は、起潮力が「引力の差」だから。差で考えると、月の反対側にもふくらみができる
  • 気象庁は起潮力の説明で「遠心力」を「慣性力」に改めている
  • 自転(1日2回)・月の公転(毎日約50分の遅れ)・月と太陽の位置関係(大潮・小潮、約29.5日)の3つが別々に効いている
  • 1日2回が同じ高さにならないのが日潮不等。極端になると1日1回になることもある
  • 潮位は60の分潮で計算される。計算で出るのは天文潮まで。残りは気象の影響(潮位偏差・高潮)
  • 海面の高さの基準面は5つ(DL/MSL/TP/潮位表基準面/基本水準面)。海図の水深0mは大潮の平均的な干潮面にほぼ相当する
  • 日本水準原点はTP上24.3900mと定義されている

標高と楕円体高とジオイド高の関係を地図の上で確かめる GeoPrism JP も公開しています。

出典

  • 気象庁「潮汐・海面水位の知識 潮汐の仕組み」(起潮力の定義・慣性力への表記変更・1日2回の理由・毎日約50分の遅れ・大潮小潮・潮位の季節変化・天文潮位) https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/db/tide/knowledge/tide/choseki.html
  • 気象庁「潮汐・海面水位の知識 用語集」(日潮不等・月齢約29.5日・分潮と主要4分潮・60分潮・各基準面の定義・日本水準原点TP上24.3900m・検潮所・平滑値と3分平均値・潮位偏差・高潮の吸い上げと吹き寄せ) https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/db/tide/knowledge/tide/yougo.html

本記事の用語の定義と数値は2026年10月時点の気象庁の公開内容に基づきます。


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