日本の中心はどこ? — 人口重心は岐阜県関市、東経135度の交点は兵庫県西脇市、そして「へそ」が437m離れている理由

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日本の中心はどこ? — 人口重心は岐阜県関市、東経135度の交点は兵庫県西脇市、そして「へそ」が437m離れている理由

日本の中心はどこ? — 人口重心は岐阜県関市、東経135度の交点は兵庫県西脇市、そして「へそ」が437m離れている理由

「へそ」が2つあります。

兵庫県西脇市には「日本のへそ」を示す標識が2か所あります。どちらも東経135度・北緯35度の交点のはずなのに、なぜ2つあるのでしょうか。

答えは、測地系が変わったからです。2つは約437m離れています。そして——「日本の中心」を名乗る場所は、西脇市だけではありません。


「日本の中心」を決める役所はない

先に確認しておきます。国に「ここが日本の中心である」と認定する制度はありません。

そのかわり、何を中心と呼ぶかを決めれば、座標は計算で出せます。だから「中心」の候補は、定義の数だけ存在します。

何を中心と呼ぶか どこになるか 誰が計算しているか
人口の重心 岐阜県関市中之保 総務省統計局(国勢調査)
東経135度・北緯35度の交点 兵庫県西脇市 経緯度の格子から自明
国土の形の重心・東西南北端の中点など 定義によって各地 定義した人

この記事では、数字と出典がはっきりしている前の2つを見ます。そして2つとも、「どの測地系で言った座標か」を書かないと再現できません。 そこが本題です。


人口重心 — 岐阜県関市中之保

総務省統計局は、国勢調査のたびに人口重心を計算して公表しています。人口の一人ひとりが同じ重さを持つと仮定して、その地域の人口が全体として平衡を保てる点のことです。

2020年(令和2年)国勢調査に基づく全国の人口重心は、次の座標です。

北緯 35度34分03.64秒
東経 137度03分20.44秒

場所は岐阜県関市中之保。統計局は「関市立武儀(むぎ)小学校から東南東へ約4.5kmの位置」と説明しています。

その「約4.5km」を自分で確かめる

説明文だけだと位置関係が頭に入りません。公表されている武儀小学校の座標(北緯35度35分08.15秒・東経137度00分40.60秒)と重心の座標から、GRS80楕円体上の距離を計算してみます。

求めたもの 計算値 統計局の公表
武儀小学校 → 人口重心の距離 4,489m 約4,489m
方位 約116度(東南東) 東南東

小数点以下まで合いました。緯度経度は、2点あれば距離と方位に直せます。 「東南東へ約4.5km」という日本語は、この計算結果を人間向けに言い直したものです。

同じやり方で、5年間の移動も確かめられます。2015年の人口重心(北緯35度34分51.44秒・東経137度02分15.84秒)と2020年を比べると——

求めたもの 計算値 統計局の公表
移動距離 2,195m 2,195m(南東へ約2.2km)
東西成分 1,626m(東へ) 東へ約1.6km
南北成分 1,473m(南へ) 南へ約1.5km

首都圏への転入超過が続いてきたため、人口重心はおおむね東南東へ動き続けています。1965年から2020年までの55年間で、重心は岐阜県内をゆっくり東へ横切ってきました。


緯度と経度を、そのまま平均してはいけない

ここで疑問が出るはずです。重心なら、全員の緯度と経度を足して人数で割れば済むのでは?

統計局が公表している算出式は、そうなっていません。

経度 x = Σ wᵢ xᵢ cos(yᵢ) / Σ wᵢ cos(yᵢ)
緯度 y = Σ wᵢ yᵢ / Σ wᵢ

wᵢ が地区の人口、xᵢ yᵢ がその地区の経度・緯度です。緯度のほうは単純な加重平均なのに、経度のほうにだけ cos(緯度) が掛かっています。

理由は、経度1度の地上距離が緯度によって変わるからです。赤道では経度1度は約111kmですが、北緯35度では約91km、北緯60度なら約56kmしかありません。緯度1度のほうは、どこでもほぼ110km前後で変わりません。

つまり 緯度経度は「縦横の目盛りが等間隔な方眼紙」ではありません。 経度の目盛りは、北へ行くほど詰まっていきます。それを無視して経度を平均すると、北にいる人の1度を南にいる人の1度と同じ重さで数えることになり、重心が北寄りの経度へ引っ張られます。cos(緯度) は、その目盛りの詰まりを補正しているわけです。

日本国内だけなら南北の幅が限られるので差は小さくなりますが、「緯度経度は平面座標ではない」という原則そのものは、面積計算でも距離計算でも同じように効いてきます。


その座標は、どの測地系で書かれた座標か

統計局の資料には、目立たない形でこう書かれています。

人口重心及び基本単位区の図形中心点の経度、緯度は、「世界測地系(JGD2000)」を用いています。

これは注釈ではなく、座標を成立させるための必須条件です。同じ「北緯35度34分03.64秒」でも、旧日本測地系で言ったのか世界測地系で言ったのかで、地面の上では数百メートル違う場所を指します。

どれくらい違うのか。それを一番わかりやすく見せてくれるのが、兵庫県西脇市です。


「日本のへそ」に、標識が2つある

西脇市は、東経135度と北緯35度が交わる街です。日本へそ公園があり、加古川線には「日本へそ公園駅」まであります。

この交点を示す標識が、2か所あります。

  • 大正12年(1923年)に建てられた標柱(通称「大正のへそ」)。旧陸軍参謀本部陸地測量部の測量にもとづくもので、当時の座標系=旧日本測地系での交点
  • 後年、GPS測量にもとづいて設けられた交点の標示(通称「平成のへそ」)。こちらは世界測地系での交点

西脇市の説明では、両者の差は約437.6mです。

地面が動いたわけではありません。同じ「東経135度・北緯35度」という座標値が、ものさしを取り替えたことで別の地点を指すようになった、ということです。


その437mは、計算で出せるのか

読んでいて疑わしいのはここだと思います。測量誤差ではなく、本当にものさしの違いで説明がつくのか。

確かめられます。国土地理院が公開している旧日本測地系→世界測地系の変換パラメータ(TKY2JGD)は、全国を約1km間隔の格子で覆い、各格子点での緯度・経度の補正量を持っています。北緯35度・東経135度の位置で、この補正量を格子から内挿すると——

項目
緯度の補正量 +11.576秒
経度の補正量 −9.972秒

北緯35度では、GRS80楕円体で緯度1秒が約30.82m、経度1秒が約25.36mです。これを掛けると、

成分 距離
南北方向 約357m
東西方向 約253m
合計 約437m

西脇市が公表している437.6mと、ほぼ一致しました。つまり2つのへその距離は、測地系の乗り換えだけでほぼ全部説明がつきます。残る差は、大正期の測量そのものの誤差や、標柱の設置位置の取り方に由来する範囲でしょう。

測地系のズレを地図上で確認する画面

GeoPrism JP の「ズレマップ」は、この補正量を日本全国ぶん地図の上に描いたものです。西脇市に限らず、自分の街で旧日本測地系と世界測地系がどれだけ離れているかを、タップして確かめられます。入力側の測地系に Tokyo、変換先に JGD2000 を選ぶと、この記事で計算したのと同じ補正量が地図の色になります。

ズレマップの入力測地系ピッカーでTokyoを選んだ状態


「線」で見るか、「点」で見るか

東経135度については、以前に別の角度から書きました。明石付近で、世界測地系の東経135度線は旧日本測地系の135度線より約260m東を通ります。

今回の437mと数字が違うのは、見ているものが違うからです。

  • 子午線=南北にのびる線として見ると、動くのは東西方向だけ。だから約260m
  • 交点=1つの点として見ると、南北方向の約357mも効いてくる。だから約437m

同じ現象を、線として測るか点として測るかで答えが変わる——というだけの話で、どちらも間違っていません。「何メートルずれるか」を聞かれたら、まず「何が」ずれるのかを確認する、という習慣がここでも効きます。


まとめ

  • 日本の中心を認定する制度はない。定義を決めれば座標が出る、という順序になっている
  • 2020年国勢調査の人口重心は岐阜県関市中之保(北緯35度34分03.64秒・東経137度03分20.44秒)。5年で南東へ約2.2km動いた
  • その計算式は経度に cos(緯度) の重みが掛かっている。緯度経度は方眼紙ではないため
  • 統計局は座標の測地系(世界測地系=JGD2000)を明記している。測地系を書かない座標は再現できない
  • 兵庫県西脇市の「へそ」が2つあるのは、旧日本測地系と世界測地系で交点の場所が違うから。差は約437.6m
  • TKY2JGDの補正量から計算すると約437m。ものさしの違いだけでほぼ説明がつく

人口重心の値は2020年(令和2年)国勢調査に基づくもので、次回調査で更新されます。西脇市の標識に関する記述は、2026年9月時点で公表されている資料に基づきます。距離の計算はGRS80楕円体上の値で、用いる式や補正量の内挿方法によって末尾の桁は変わります。

出典

  • 総務省統計局「統計トピックスNo.135 我が国の人口重心 — 令和2年国勢調査結果から」 https://www.stat.go.jp/data/kokusei/topics/pdf/topics135.pdf
  • 総務省統計局「令和2年国勢調査 人口重心」 https://www.stat.go.jp/data/kokusei/topics/topi135.html
  • 西脇市「日本へそ公園概要」 https://www.city.nishiwaki.lg.jp/kakukanogoannai/kensetsusuidoubu/shisetukanrika/park_sightseeing/heso_park/1355360123022.html
  • 日本へそ公園 — Wikipedia日本語版 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%B8%E3%81%9D%E5%85%AC%E5%9C%92
  • 国土地理院「TKY2JGD(世界測地系移行のための座標変換ツール)」 https://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/tky2jgd/
  • 国土地理院「測量計算サイト」 https://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/surveycalc/main.html

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