
【クイズ解説⑳】海辺に立つと水平線までは何キロ? — 目の高さで決まる距離と、その「高さ」の基準
4.7キロ先です。
砂浜に立って、遠くの水平線を眺めたことがあると思います。あの境目までは、どのくらい離れているのでしょうか。
結論から書くと、大人が浜辺に立って見ている水平線はおよそ4.7km。歩いて1時間かからない距離です。ただし——この計算をするとき、入れる「高さ」を1種類まちがえるだけで、答えが4倍以上になります。その罠を、4択2問で確かめます。
第1問:砂浜に立った大人が見ている水平線までの距離は?
目の高さを1.5mとします。晴れた日に海辺で見えている水平線までの距離は、およそどれくらいでしょうか。
- 約1.5km
- 約4.7km
- 約12km
- 約40km
正解:2(約4.7km)
なぜそうなるのか
地球が丸いので、目の高さh(メートル)から見える水平線までの距離D(キロメートル)は、こう書けます。
D ≒ 3.83 × √h
hが1.5mなら、√1.5 ≒ 1.22。掛けて 約4.7km です。
係数の3.83には、大気による光の曲がり(大気屈折)が含まれています。地球を半径6,371kmの球とみなした純粋な幾何だけなら係数は3.57で、答えは約4.4km。空気が光をわずかに下向きに曲げてくれるぶん、実際にはもう少し遠くまで見えます。
この式のいちばん面白いところ——平方根である
| 見る場所 | 高さ | 水平線までの距離 |
|---|---|---|
| 砂浜に立った大人の目 | 1.5 m | 約 4.7 km |
| 5階建てビルの屋上 | 15 m | 約 14.8 km |
| 展望台 | 100 m | 約 38.3 km |
| 高層展望台 | 450 m | 約 81.2 km |
| 富士山の山頂 | 3,776 m | 約 235 km |
高さを10倍にしても、見える距離は約3.2倍にしかなりません。平方根だからです。展望台をどれだけ高くしても、見通しがそれに比例して伸びてくれない——灯台の高さがある程度で頭打ちになるのは、この式のせいです。
「約4.7km」がなぜ小さく感じるのか
海の写真は広く写るので、水平線はずっと遠くにあるように見えます。しかし4.7kmは、東京駅から皇居を通り越して四ツ谷あたりまでの距離にすぎません。地球の丸みは、遠くの宇宙にあるのではなく、自分の身長のすぐそばにあります。
富士山が322.9km先から撮れる理由
表では富士山の山頂から見える水平線を約235kmと計算しました。ところが、富士山が実際に撮影された最も遠い地点は和歌山県那智勝浦町の色川富士見峠で、その距離は約322.9kmです(2001年9月に撮影成功)。235kmを大きく超えています。
矛盾ではありません。235kmは「見られる側だけが高くて、見る側は海面にいる」場合の答えだからです。見る側にも高さがあれば、その分を足せます。
D ≒ 3.83 ×(√h₁ + √h₂)
322.9kmになるには、観測地点側に約530m以上の高さがあればよい計算です。峠から見ているのですから、条件は満たされます。だから「富士山が見える最遠の地」争いは、遠くの高い場所を探す競争になるわけです。
第2問:この計算に入れる「高さ」は、どれを使えばいい?
水平線までの距離の式に入れる高さについて、正しいものはどれでしょうか。
- GNSS受信機やスマートフォンが表示する高さを、そのまま入れればよい
- GNSSが最初に出す高さは多くの場合「楕円体高」で、日本では標高と30〜40mちがう。そのまま入れると距離が大きく狂う
- 標高と楕円体高は呼び方が違うだけで同じ量なので、どちらを入れても結果は同じ
- 高さの基準面がどれかは、水平線までの距離には関係しない
正解:2(楕円体高と標高は日本で30〜40mちがう)
なぜそうなるのか
日本の「高さ」には、少なくとも3種類あります。
- 標高:ジオイド(平均海面を陸地の下まで延長した、重力が生む凸凹した面)からの高さ。日本の陸地では東京湾平均海面を基準にしています
- 楕円体高:地球を数学的な回転楕円体(GRS80など)とみなしたときの、そのなめらかな面からの高さ
- ジオイド高:楕円体面からジオイドまでの差。日本ではおよそ30〜40mあります

GNSS受信機やスマートフォンが最初に出す高さは、多くの場合「楕円体高」です。日本ではジオイド高が30〜40mありますから、楕円体高をそのまま標高だと思って使うと、30m以上高い場所にいることになります。
数字にしてみましょう。
| 入れた高さ | 水平線までの距離 |
|---|---|
| 目の高さ 1.5 m(正しい) | 約 4.7 km |
| 楕円体高そのまま 31.5 m(誤り) | 約 21.5 km |
4倍以上ちがいます。「高さを1つ言えば済む」と思えるところに、実は3種類の高さが隠れている——これがGeoPrism JPが繰り返し扱ってきたテーマです。
選択肢のどこが違うか
- 1(そのまま入れればよい):機種と設定によっては標高を表示するものもありますが、内部で持っているのは楕円体高で、ジオイドモデルを使って標高に直したものを表示している、という構造です。「そのまま」で済むかどうかは機械次第
- 3(同じ量):まったく別の面からの高さです。ジオイドは重力が作る凸凹した面で、楕円体は数式で決まるなめらかな面。日本国内でもジオイド高は場所によって変わります
- 4(関係ない):関係します。上の表のとおりです
厳密に言うと、標高も水平線の式にぴったりではない
正直に書いておくと、水平線までの距離の式に出てくる「地球の半径」は、幾何的な球の半径です。一方、日常で言う標高はでこぼこしたジオイドを基準にした高さなので、この2つは厳密には別の基準面を指しています。
ただし、この差が答えを変えることはまずありません。ジオイドと球のずれは日本国内で数十m、しかも√の中に埋もれてしまうからです。問題になるのは、楕円体高と標高を取り違えたときだけ——桁が違うのはそちらです。

GeoPrism JP のジオイドマップは、いま自分がいる場所のジオイド高が何メートルあるかを、地図の上で直接確かめられる画面です。30〜40mという数字が、日本のどこで大きくどこで小さいのかは、数値の表よりも面の凸凹として見たほうが早く入ってきます。
https://apps.apple.com/app/id6780149823
今回のまとめ
- 水平線までの距離は目の高さの平方根に比例する。屈折込みで D ≒ 3.83√h(h:m、D:km)
- 砂浜に立った大人で約4.7km、富士山の山頂から約235km
- 見る側にも高さがあれば足せる。だから富士山は322.9km先の和歌山県からも撮影されている
- 式に入れる高さは「海面から」だが、GNSSが出す高さは多くの場合ジオイドではなく楕円体からの高さ
- 日本のジオイド高はおよそ30〜40m。取り違えると、目の高さ1.5mが31.5mになり、答えは4.7kmから21.5kmへ跳ね上がる
海を見て「向こうに何があるのか」と思うとき、その距離を決めているのは向こう側ではなく、自分の目の高さです。そして「自分の目の高さ」を機械に聞くと、機械はどの面からの高さを答えているのか——この2段目まで行くと、GNSSの数字の読み方が変わってきます。
なお、GeoPrism JP の「学ぶ・クイズ」を解説するこの連載は今回で20回目です。前回は日付変更線と経度180度の基準を扱いました。
出典
- 国土地理院「標高とは」 https://www.gsi.go.jp/buturisokuchi/grageo_geoid.html
- 国土地理院「ジオイド・モデル」 https://www.gsi.go.jp/buturisokuchi/geoid.html
- 富士山NET「富士山最遠望の地」 https://www.fujisan-net.jp/post_detail/2001034
距離の数値は本記事内の計算による概算で、地球を球とみなしています。大気屈折の効き方は気温・気圧の分布で変わるため、実際の見え方とは差が出ます。記述は2026年9月時点のものです。
次に確認する
- 水平線までの距離を詳しい解説で確認する — 本クイズのもとになった解説記事です
- 楕円体高・標高・ジオイド高の違いを図で確認する — 第2問で取り違えた3つの高さの整理です
- 海抜と標高で何が違うのかを確認する — 同じ「海面からの高さ」でも基準の海面が違うことがあります
- 富士山の3776mを誰がどう測ってきたかを確認する — 235kmの計算に使った高さの出どころです
- RTKで測った高さがそのまま標高にならない理由を確認する(GeoDiveExa) — 現場で同じ取り違えが起きる場面です
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第8章「標高・ジオイド・海面」(Kindle Unlimited対応)
入門から通しで読むなら: 『日本の測地系がわかる本』 — 旧日本測地系から JGD2024 まで、座標がズレる理由と実務での扱いを1冊にまとめました(Kindle Unlimited 対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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