南極点の経度は何度? — すべての子午線が集まる場所で、座標と時刻と地図はどう決まるのか

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南極点の経度は何度? — すべての子午線が集まる場所で、座標と時刻と地図はどう決まるのか

南極点の経度は何度? — すべての子午線が集まる場所で、座標と時刻と地図はどう決まるのか

答えは「決まらない」です。 南極点の緯度は南緯90度とはっきり決まりますが、経度はどの値でも同じ点を指してしまうため、値として意味を持ちません。180本すべての子午線が1点に集まるので、東経0度の南緯90度と、東経137度の南緯90度は、まったく同じ場所です。そのため極では、時刻の決め方も地図の描き方も、そして「点の位置を記録する方法」まで、ふつうの場所とは変えざるを得ません。

まず、経度が「決まらない」とはどういうことか

緯度と経度は、地球を2つの角度で指す仕組みです。

  • 緯度は赤道からの南北の角度。赤道が0度、極が90度。
  • 経度は本初子午線からの東西の角度。経度は子午線を選ぶための角度です。

赤道上では、経度が1度違えば約111km離れます。しかし北へ南へ進むほど子午線の間隔は狭まり、緯度60度では約半分、緯度80度では約19kmになります。そして極では0kmになります。子午線がすべて1点で交わるので、「どの子午線の上にいるか」を言っても場所が絞れません。

数学的に言えば、緯度経度という座標系は極で特異点を持ちます。緯度±90度の1点だけ、経度の値が座標として機能しません。地球儀の上でなら当たり前に見えますが、コードの中では厄介です。

緯度 経度1度あたりの東西距離(概算)
0度(赤道) 約111km
35度(日本付近) 約91km
60度 約56km
80度 約19km
89度 約1.9km
90度(極) 0km

だから極では「緯度経度以外の座標」を使う

地図に描くときにも同じ問題が出ます。日本の平面直角座標系や UTM は、子午線を軸にして円筒に投影するやりかたです。極に近づくとこの円筒投影が使えなくなるため、UTM は北緯84度から南緯80度までしかカバーしません。

極域では代わりに UPS(Universal Polar Stereographic/極平射図法) を使います。極を中心に平面を貼りつけて投影する方法で、極が図の中心になるので特異点が消えます。ここでは「経度何度」ではなく x, y のメートル値で位置を言います。

つまり極では、位置を記録する手段が緯度経度からメートル座標へ切り替わるわけです。日本で「緯度経度で言うか、平面直角座標で言うか」を場面で選ぶのと、同じ発想の延長にあります。

時刻はどう決めているのか

時刻も同じ理由で決まりません。標準時は経度15度ごとに1時間という約束で作られているので、すべての経度が集まる極では、原理的にどの時刻帯にも属します。

現実の解決はとても実務的です。南極点にあるアムンゼン・スコット基地は、ニュージーランドの時刻を使っています。理由は物流で、基地への便がクライストチャーチから出るためです。極では「天文学的に正しい時刻」ではなく「連絡先と揃う時刻」を選ぶ、ということになります。

日本の標準時が東経135度という1本の子午線で決まっていることと比べると、対照的です。片方は子午線で決め、片方は子午線が使えないから人の都合で決める——時刻はもともと約束事だということが、極でいちばんはっきり見えます。

そして、南極点の標識は毎年動かされる

もう一段おもしろい話があります。南極点の「地理上の南極点」を示す標識は、毎年1月1日に位置を付け替えられています

理由は氷です。標識が立っているのは岩盤ではなく氷床の上で、その氷床は年に約10mの速さでウェッデル海の方向へ流れています。放っておくと標識だけが南極点から離れていきます。そこで毎年、新しい正しい位置を測り直し、その年のデザインの標識を据え直す——1959年から続く行事になっています。

地面そのものが動くために座標が変わるという考え方

これは、日本の測地系が抱えている問題とまったく同じ構図です。地面が動くなら、座標は「いつの座標か」を言わないと意味を持ちません。 日本ではプレート運動と地震で電子基準点が動くため、元期(基準となる時点)と今期(測った時点)を区別し、セミダイナミック補正で両者をつなぎます。南極点の標識は、その考え方を氷の上でやっている、いわば極端な実例です。

  • 日本:地殻が年に数cm動く → 元期・今期を区別する
  • 南極点:氷床が年に約10m動く → 標識を毎年付け替える

動く量が3桁違うだけで、やっていることは同じです。

標高はどこから測るのか

南極点の標高も、ふつうとは事情が違います。標高は本来、ジオイド(重力の等ポテンシャル面=平均海面を陸まで延長した面)を基準にした高さです。南極点には海面がないので、ジオイドモデルを使って基準面を計算で延ばすことになります。

しかも南極点で地表を測ると、それは氷の表面の高さです。氷の下の岩盤の標高とは 2,000m 以上違います。「南極点の高さ」という言い方には、氷の表面か岩盤かという区別が必ず付いてきます。日本で「標高は地表面の値であって、建物の高さは入っていない」という話をするのと同じ注意が、もっと大きなスケールで効いてくる場所です。

北極点はどうか

北極点も緯度90度・経度なしで同じですが、条件はもう一段変わります。北極点の下は陸ではなく海氷です。氷そのものが漂流するので、そもそも標識を立てておけません。「北極点に到達した」は、その瞬間に緯度90度の位置にいたということで、そこに恒久的な目印は残りません。

GNSS の見え方も違います。静止衛星や、日本の真上を通るみちびき(準天頂衛星)は、極からは地平線の下になって使えません。極域で GNSS 測位をするなら、軌道傾斜角の大きい衛星群に頼ることになります。「どの衛星が見えるか」も緯度で決まる、という当たり前の事実が極では効いてきます。

まとめ

  • 南極点の緯度は南緯90度、経度は決まらない。すべての子午線が1点で交わるため。
  • 経度1度あたりの東西距離は極で0km。緯度経度は極で特異点を持つ。
  • 地図と位置記録は UTM(南緯80度まで)から UPS(極平射図法)へ切り替える
  • 時刻は経度で決められないので、南極点基地はニュージーランドの時刻を使う。
  • 地理上の南極点の標識は、氷床が年約10m流れるため毎年1月1日に付け替える
  • 「動く地面の上では、座標に時点が必要」という日本の測地系の話と、構図はまったく同じ。

GeoPrism JP は、測地系ごとの座標のズレやジオイドの起伏を地図の上で見て確かめられる iOS アプリです。緯度によって経度1度の距離が変わることや、平面直角座標系が子午線を軸にしていることは、実際に地図上で数値を動かしてみると腑に落ちます。

出典

  • South Pole — Encyclopaedia Britannica: https://britannica.com/print/article/556356
  • Amundsen–Scott South Pole Station(基地の概要と使用時刻)— EBSCO Research Starters: https://www.ebsco.com/research-starters/science/amundsen-scott-south-pole-station/
  • The South Pole Just Moved. Here’s Why — Scientific American(標識の毎年の付け替えと氷床の流動): https://www.scientificamerican.com/article/the-south-pole-just-moved-heres-why/
  • A Tradition Since 1959: Scientists Move the South Pole — Explorersweb: https://explorersweb.com/a-tradition-since-1959-scientists-move-the-south-pole/

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開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。


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