メルカトル図法でグリーンランドはなぜ大きく見える? — 地図のゆがみと、日本の測量が使う投影法のちがい

,

メルカトル図法でグリーンランドはなぜ大きく見える? — 地図のゆがみと、日本の測量が使う投影法のちがい

メルカトル図法でグリーンランドはなぜ大きく見える? — 地図のゆがみと、日本の測量が使う投影法のちがい

メルカトル図法は「角度を正しく保つ」代わりに、高緯度ほど面積を引き伸ばす図法だからです。 引き伸ばし方は緯度で決まり、緯度60度で長さが2倍・面積が4倍、緯度70度あたりでは面積が8倍を超えます。北緯60〜83度に横たわるグリーンランドは、その最大の被害者です。実面積はアフリカの約14分の1しかありません。


まず、丸い地球は平らにできない

紙にせよ画面にせよ、地図は平面です。ところが球面は、どんな方法を使っても、伸ばしたり縮めたりせずに平面へ広げることはできません。これは数学的に証明されている性質で、地図学の出発点になっています。

オレンジの皮をむいて机の上で1枚の長方形にしようとすると、どこかを裂くか、どこかを引き伸ばすしかない——という話と同じです。

だから、あらゆる図法は必ず何かをあきらめています。

保てるもの 図法の呼び名 代表例
角度・形(局所的に) 正角図法 メルカトル、横メルカトル
面積 正積図法 モルワイデ、ランベルト正積方位
ある点からの距離 正距図法 正距方位図法

正角と正積は同時に成り立ちません。 世界地図で「形が自然に見えるもの」を選べば面積が狂い、「面積が正しいもの」を選べば形がゆがみます。


メルカトル図法が引き受けたもの、捨てたもの

メルカトル図法は1569年に作られました。狙いははっきりしていて、航海のためです。

この図法では、羅針盤の同じ方位をとり続ける航路が、地図上でまっすぐな線になります。「北東へ進み続ける」と決めたら、地図に定規で線を引けばそれが実際の航路になる。帆船の時代に、これは決定的な便利さでした。

そのために選んだのが「角度を保つ」という性質です。局所的に見れば形はゆがまず、円は円のまま。ただし——

経線を平行な直線として描くという無理をしています。地球の経線は極で1点に集まるのに、地図では上端まで平行のまま。つまり高緯度ほど東西方向に引き伸ばしているわけです。そして角度を保つには、引き伸ばした分だけ南北方向も同じ比率で伸ばす必要があります。

結果、面積の拡大率は次のように効いてきます。

緯度 長さの倍率 面積の倍率
0度(赤道) 1.0 1.0
30度 約1.15 約1.3
45度 約1.41 約2.0
60度 2.0 4.0
70度 約2.9 約8.5
80度 約5.8 約33

長さの倍率は緯度の余弦の逆数、面積はその2乗です。北緯90度では倍率が無限大になるため、メルカトル図法では極点そのものを描けません


グリーンランドとアフリカを並べてみる

数字にすると、ゆがみの大きさが実感できます。

実際の面積 メルカトル図法上の見え方
グリーンランド(北緯60〜83度) 約216万km² アフリカとほぼ同じ大きさ
アフリカ大陸(ほぼ赤道をまたぐ) 約3,037万km² ほぼ実寸に近い

実面積はアフリカがグリーンランドの約14倍です。それが同じ大きさに見えるのは、片方が赤道付近でほぼ拡大されず、もう片方が高緯度で8〜30倍に膨らんでいるためです。

同じ理由で、南極大陸は下端に帯状に引き伸ばされ、ロシアやカナダも実際よりかなり大きく見えます。「世界地図を見て覚えた国の大きさ」は、かなりの部分がメルカトル図法の癖だということになります。


Webの地図もメルカトルの仲間

ブラウザやスマートフォンで見る地図——地理院地図、OpenStreetMap、各社の地図サービス——は、Webメルカトルと呼ばれる投影を使っています。

  • 高緯度が膨らむ性質はメルカトルと同じ
  • 極を描けないため、南北とも緯度約85.05度で切って正方形にしている。この緯度で切ると縦横が同じ長さになり、タイルを正方形に敷き詰められる
  • 正確には地球を球として扱っており、測量に使うには精度が足りない

タイルの敷き詰め方とズームレベルのしくみは地理院タイルの記事で図解しています。Webメルカトルの座標を測量用の座標に直す実務手順はGeoConverter Pro側の記事にあります。


日本の測量はどうしているか

「投影するとゆがむ」なら、cmを争う測量はどうしているのか。答えはゆがみを消すのではなく、ゆがみが無視できる大きさになるまで範囲を狭めるです。

平面直角座標系19系の区分

日本の平面直角座標系は、メルカトル図法を横倒しにした投影(横メルカトル/ガウス・クリューゲル)を使います。円筒を赤道に巻くのではなく、南北の子午線に沿って巻くイメージです。こうすると、巻きつけた子午線の近くではゆがみがごく小さくなります。

そのうえで、

  • 全国を19の系に分け、それぞれに原点となる子午線を置く
  • 原点でわざと縮尺を 0.9999 に設定する。中央で少し縮めておくと、東西に離れた場所で伸びる分と相殺され、系全体でゆがみが小さく収まる
  • 1つの系がカバーするのは、原点から東西におよそ130km程度まで

その結果、距離のゆがみは1万分の1程度に抑えられています。1kmで10cm。これなら実務で扱える大きさです。


図法の選び方——目的から決める

やりたいこと 向いている図法
航路・方位を扱う メルカトル
国の面積を比べる 正積図法(モルワイデなど)
Webで拡大縮小して見る Webメルカトル
測量・工事の座標を扱う 横メルカトル(平面直角座標系・UTM)
特定地点からの距離・方位を見る 正距方位図法

「正しい世界地図」は存在しません。何を正しく保ちたいかを決めた瞬間に、図法が決まると考えるほうが実態に合っています。


まとめ

  • 球面は平面に完全には広げられない。すべての図法は何かをあきらめている
  • メルカトル図法は角度を保つ代わりに高緯度の面積を膨らませる。緯度60度で面積4倍、70度で8倍超
  • グリーンランドがアフリカと同じ大きさに見えるのはそのため。実面積は約14分の1
  • Webの地図はWebメルカトル。緯度約85度で切って正方形にしている
  • 日本の測量は横メルカトルで19系に分割し、原点の縮尺を0.9999にすることで、ゆがみを1万分の1程度に抑えている

出典

  • 国土地理院「平面直角座標系(平成十四年国土交通省告示第九号)」 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/jpc.html
  • 国土地理院「地理院タイル一覧」 https://maps.gsi.go.jp/development/ichiran.html
  • 国土地理院「地図投影法」 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/

面積の値は各機関の公表値に基づくおおよその数値です。倍率の表は理論式から求めた目安であり、地図製品ごとの実装で細部は異なります。記載は2026年8月時点の情報に基づきます。


次に確認する


入門から通しで読むなら: 『日本の測地系がわかる本』 — 旧日本測地系から JGD2024 まで、座標がズレる理由と実務での扱いを1冊にまとめました(Kindle Unlimited 対応)


開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。


お願い
本記事の情報は参考目的で掲載しており、正確性・完全性を保証するものではありません。誤記・不正確な情報がございましたら、コメント欄よりご指摘いただければ、確認のうえ修正いたします。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

トップへ戻る