「海抜」と「標高」は同じか — 用語のきわどい違い


「海抜」と「標高」は同じか — 用語のきわどい違い

「海抜」と「標高」は同じか — 用語のきわどい違い

防災看板の「海抜3.2m」、地形図の「標高125m」、海図の「水深40m」。どれも海面を基準にした高さのように見えますが、実は基準にしている海面そのものが微妙に違います。似ているようで違うこれらの用語を、断面で整理してみます。


「海抜○m」看板の意味

街なかでよく見る「海抜○m」の防災看板は、津波・高潮のリスクを直感的に伝えるための表示です。ここでいう「海抜」は、その地点の近くの海の平均海面を基準にした高さを指す、というのが本来の定義です。

標高との関係 — 実質同じだが由来が違う

一方、地形図や測量で使う「標高」は、日本全国で統一された基準面である東京湾平均海面(T.P.:Tokyo Peil)からの高さです。東京湾平均海面は、明治時代に隅田川河口の霊岸島で観測した潮位の平均値から定められ、実際の測量ではその高さを引き継いだ日本水準原点(東京都千代田区・憲政記念館構内)の標高24.3900mを基準に、全国の水準点へ高さが伝えられています。日本水準原点の値は関東大震災後に24.4140mへ改定され、さらに東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)による地盤沈下を受けて2011年に現在の24.3900mへ再改定されました。

「海抜」と「標高」は、定義としては「近くの海面基準」か「東京湾平均海面基準」かという違いがありますが、実務上はほぼ同じ意味で使われています。防災の文脈では「海抜」、測量・地図の文脈では「標高」という使い分けの慣習がある、と捉えるのが実態に近いでしょう。


海図の水深は別の基準 — 最低水面

ここまでの「海抜」「標高」は、いずれも平均的な海面を基準にしています。ところが海図に載っている「水深」は、これとは異なる基準面——最低水面(略最低低潮面)を使います。最低水面は「これより潮が引くことはまずない」という最も低い潮位の想定値で、船の航行安全のためにあえて低めに設定された基準です。

そのため、標高の基準面(東京湾平均海面)と水深の基準面(最低水面)にはズレがあります。例えば大阪湾では最低潮位が東京湾平均海面より約1.3m低い位置に、荒川工事基準面では約1.134m低い位置に、それぞれ設定されています。同じ「海面からの高さ」でも、目的が変われば基準面ごと変わる、という点が実務上の落とし穴です。


津波・高潮の「高さ」はまた別の基準

気象庁が発表する「津波の高さ」は、標高や水深の基準とはさらに違う考え方をします。これは平常潮位(津波が来る直前の、その時々の実際の潮位)からの上昇量を指すもので、東京湾平均海面のような固定された基準面ではなく、観測時点で変動する海面が基準になります。台風接近時の「高潮」も同様に、平常時の潮位との差分で語られます。

つまり「津波の高さ3m」は、地形図の標高3mとは全く別の物差しで測られている、ということです。


断面図でまとめる — 4つの基準面

ここまで登場した基準面を、高い順に整理すると次のようになります。

基準面 何のために使うか 東京湾平均海面(T.P.)との関係
東京湾平均海面(T.P.) 標高・海抜の基準 基準(0m)
荒川工事基準面(A.P.) 河川工事の高さ基準 T.P.より約1.134m低い
大阪湾最低潮位(O.P.) 大阪湾・淀川の高さ基準 T.P.より約1.3m低い
最低水面(略最低低潮面) 海図の水深基準 場所ごとに異なる(潮位差が大きい海域ほど低い)

楕円体高・標高・ジオイド高の関係

上の図は、GNSSが出す「楕円体高」と地図の「標高」の関係を示したものです。今回扱った「海抜・標高・水深・津波高」は、いずれもこの図でいう標高(正標高)側の話ですが、同じ標高という言葉の中でも基準面が使い分けられているという点が、今回のポイントです。


まとめ

  • 「海抜」は近くの海の平均海面、「標高」は東京湾平均海面(T.P.)が基準で、定義は異なるが実務上はほぼ同じ意味で使われる。
  • 東京湾平均海面は日本水準原点(現在24.3900m)を通じて全国の水準点に伝えられている。
  • 海図の水深は「最低水面」という別の基準面を使い、標高の基準面より低い位置に設定されている(大阪湾で約1.3m、荒川で約1.134m低い、など地域差がある)。
  • 津波・高潮の「高さ」は固定基準面ではなく、その時々の平常潮位からの上昇量で表される。

GeoPrism JPのジオイドマップでは、標高・楕円体高・ジオイド高の関係を数値で確認できます。今回のような「同じ高さでも基準がいくつもある」という感覚は、測量や防災の情報を読み解くうえでの土台になります。

出典

  • 平均海面 | 国土地理院 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/suijun-kijun.html
  • 小学5年・6年のページ:標高と海抜と水準点 | 国土地理院 https://www.gsi.go.jp/KIDS/KIDS06.html
  • 日本水準原点 | Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E6%B0%B4%E6%BA%96%E5%8E%9F%E7%82%B9
  • 平均水面、最高水面及び最低水面の高さ | 海上保安庁 https://www1.kaiho.mlit.go.jp/TIDE/datum/
  • 津波について | 気象庁 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq26.html

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