
地球の中心からいちばん遠い場所はどこ? — エベレストではなくチンボラソ、日本では富士山でもなく沖ノ鳥島
エベレストではありません。 地球の中心からいちばん遠い地表の点は、南米エクアドルのチンボラソ山(標高6,263m)の頂上です。標高では2,500m以上も低いのに、地心からの距離ではエベレストを約2.1km上回ります。理由は地球が赤道方向にふくらんだ回転楕円体だから。同じ理屈を日本に当てはめると、地心からいちばん遠いのは富士山ではなく沖ノ鳥島になります。
「高さ」には二つの測り方がある
私たちがふだん「標高」と呼んでいるのは、平均海面(に相当する面)からの高さです。エベレストの8,848.86mも、富士山の3,776mも、この意味の高さです。
一方、「地球の中心からの距離」は別物です。こちらは
地心距離 = その緯度における楕円体の半径 + 楕円体高
で決まります。楕円体高は、標高にジオイド高を足したものです(標高・楕円体高・ジオイド高の関係は下の図のとおり)。

ここで効いてくるのが第1項です。地球は球ではないので、楕円体の半径そのものが緯度によって大きく変わります。
赤道は、極より21km太い
日本の測量で使うGRS80楕円体は、こう定義されています。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 長半径(赤道半径) | 6,378,137 m |
| 短半径(極半径) | 約6,356,752 m |
| 差 | 約21,385 m(約21.4km) |
赤道のほうが極より21km以上も外側にあるわけです。エベレストの標高(8.8km)の2倍以上、富士山(3.8km)の5倍以上。山の高さくらいでは、この差はまるで埋まりません。
緯度ごとの楕円体半径を並べると、減り方がよく分かります。
| 緯度 | 楕円体の半径 |
|---|---|
| 0度(赤道) | 6,378.14 km |
| 10度 | 6,377.50 km |
| 20度 | 6,375.65 km |
| 30度 | 6,372.82 km |
| 40度 | 6,369.34 km |
| 60度 | 6,362.13 km |
| 90度(極) | 6,356.75 km |
赤道近くほど「下駄をはいている」状態です。
世界の山を、地心距離で並べ替える
同じ計算を有名な山に当てはめます。
| 山 | 緯度 | 標高 | 地心距離 |
|---|---|---|---|
| チンボラソ(エクアドル) | 南緯1度28分 | 6,263 m | 約6,384.4 km |
| キリマンジャロ(タンザニア) | 南緯3度04分 | 5,895 m | 約6,384.0 km |
| エベレスト(ネパール/中国) | 北緯27度59分 | 8,848.86 m | 約6,382.3 km |
| アコンカグア(アルゼンチン) | 南緯32度39分 | 6,961 m | 約6,378.9 km |
チンボラソとエベレストの差は約2.1km。標高では2,586mも負けているチンボラソが、赤道からわずか1度半という位置の有利さだけで逆転しています。
しかも2位はキリマンジャロです。標高5,895mの山が、8,848mのエベレストを上回る。「地心距離ランキング」は、標高ランキングとはまったく別の順位表になります。
日本でやってみると、富士山が勝てない
日本の緯度幅は北緯20度25分(沖ノ鳥島)から北緯45度33分(宗谷岬)まで、約25度あります。この間で楕円体半径は約8km変わります。富士山の標高3,776mの、倍以上です。
GRS80楕円体で計算した、日本の主な地点の地心距離がこちらです(標高のみを足した概算)。
| 地点 | 緯度 | 標高 | 地心距離 |
|---|---|---|---|
| 沖ノ鳥島 | 北緯20度25分 | ほぼ0 m | 約6,375.55 km |
| 於茂登岳(石垣島) | 北緯24度26分 | 526 m | 約6,375.03 km |
| 古見岳(西表島) | 北緯24度21分 | 469 m | 約6,375.00 km |
| 富士山 | 北緯35度22分 | 3,776 m | 約6,374.79 km |
| 宇良部岳(与那国島) | 北緯24度28分 | 231 m | 約6,374.73 km |
| 宮之浦岳(屋久島) | 北緯30度20分 | 1,936 m | 約6,374.65 km |
| 南鳥島 | 北緯24度17分 | 9 m | 約6,374.55 km |
| 北岳(南アルプス) | 北緯35度40分 | 3,193 m | 約6,374.10 km |
| 旭岳(大雪山) | 北緯43度40分 | 2,291 m | 約6,370.28 km |
日本でいちばん地心から遠い陸地は、標高ほぼ0mの沖ノ鳥島です。富士山より約760m外側にあります。満潮時には海面からわずかしか出ていない岩が、日本でいちばん「宇宙に近い」——という逆転が起きます。
石垣島の於茂登岳(526m)も富士山を約240m上回ります。逆に言えば、石垣島で富士山に並ぶには標高285mあればよいという計算です。屋久島なら約2,075m必要なので、宮之浦岳(1,936m)は届きません。北海道の山はどれだけ高くても勝負になりません。
ジオイド高を足したらどうなる? 上の表は標高だけを足した概算です。正確には楕円体高(=標高+ジオイド高)を足しますが、日本周辺のジオイド高はおおむね20〜45mの範囲に収まり、地点どうしの差は大きくても20m程度です。数百m単位で開いている上の順位は、これでは変わりません。
なぜ「赤道が太い」のか
地球が自転しているからです。自転による遠心力は赤道でいちばん大きく、極ではゼロになります。長い時間をかけて、地球は遠心力とつり合う形——赤道方向にふくらんだ回転楕円体に落ち着きました。GRS80の扁平率1/298.257222101は、この形を数値にしたものです。
つまりチンボラソが1位なのは、山が高いからでも地面が盛り上がっているからでもなく、地球が自転しているからということになります。
「一番」は基準しだいで入れ替わる
同じ地球の同じ地形を測っているのに、基準を変えるだけで答えが変わります。
| 何を「高い」とみなすか | 世界1位 | 日本1位 |
|---|---|---|
| 平均海面からの高さ(標高) | エベレスト 8,848.86 m | 富士山 3,776 m |
| 地球の中心からの距離 | チンボラソ 約6,384.4 km | 沖ノ鳥島 約6,375.55 km |
| 山のふもとから山頂までの高さ | マウナケア(海底から約10,000m) | — |
「日本一高い山は富士山」は正しい答えですが、それは「東京湾平均海面からの高さで測ったとき」という前提つきの正しさです。測地の世界で「基準は何か」を最初に確認するのは、こういう入れ替わりが日常的に起きるからです。
まとめ
- 地心からいちばん遠い地表の点はチンボラソ(標高6,263m・南緯1度28分)で、約6,384.4 km。エベレストより約2.1km外側
- 理由はGRS80楕円体の赤道半径と極半径の差が約21.4kmあること。山の高さでは埋まらない
- 2位はキリマンジャロ。地心距離の順位は標高の順位とは別物
- 日本では沖ノ鳥島(標高ほぼ0m)が1位で約6,375.55 km。富士山より約760m外側
- 於茂登岳(石垣島・526m)も富士山を約240m上回る。石垣島なら標高285mで富士山に並ぶ
- ジオイド高(日本周辺で20〜45m程度)を足しても、この順位は変わらない
- 楕円体がふくらんでいるのは自転の遠心力による。扁平率1/298.257222101がその形を表す
出典・計算の前提
- GRS80楕円体:長半径 a = 6,378,137 m、扁平率 f = 1/298.257222101(日本の測地基準系が採用)
- 地心距離は R(φ) + 標高 で計算した概算値(φ は測地緯度、R(φ) は楕円体面上の地心半径)。ジオイド高は加算していない
- エベレストの標高8,848.86mは2020年にネパール・中国が共同で公表した値
- 各地点の緯度・標高は代表的な公表値を用いた参考値。2026年9月時点
次に確認する
- GRS80とWGS84の楕円体の違いを図で確認する — 本記事で使った長半径・扁平率がどこから来た数字なのかが分かります
- 楕円体高・標高・ジオイド高の三角関係を図で確認する — 「地心距離=楕円体半径+楕円体高」の第2項の中身です
- 富士山の標高3,776mを誰がどう測ってきたかを確認する — 「日本一高い山」のほうの基準の話です
- 沖ノ鳥島の座標と、島がもつ意味を確認する — 本記事で1位になった地点の緯度経度そのものです
- 日本一低い山はどこかを現場目線で確認する(GeoDiveExa) — 「高さの一番」が基準しだいで入れ替わる、もうひとつの実例です
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第2章「地球のかたちと『メートル』」(Kindle Unlimited対応)
入門から通しで読むなら: 『日本の測地系がわかる本』 — 旧日本測地系から JGD2024 まで、座標がズレる理由と実務での扱いを1冊にまとめました(Kindle Unlimited 対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
お願い
本記事の情報は参考目的で掲載しており、正確性・完全性を保証するものではありません。誤記・不正確な情報がございましたら、コメント欄よりご指摘いただければ、確認のうえ修正いたします。
コメントを残す