
昔の船はどうやって経度を知った? — 時計で位置を測るしくみは、GPSも同じ
正確な時計を積んでいきました。 出発した港の時刻を刻み続ける時計を持ち、その時刻と、いま自分がいる海の上の「太陽が真南に来た時刻」を比べます。時間の差1時間が、経度15度。 位置を距離ではなく時間で測るという発想は、いまのGNSS(GPS)とまったく同じです。違うのは、比べているのが船の時計と太陽か、衛星の原子時計と受信機の時計か、というところだけです。
緯度は簡単、経度は難しかった
同じ「地球上の位置」を表す2つの数字なのに、緯度と経度では難しさがまるで違いました。
緯度は、北極星の高さや、正午の太陽の高さを測れば分かります。空を見るだけで決まるのです。角度を測る道具さえあれば、大航海時代の船でも十分な精度で求められました。
経度にはそういう目印がありません。地球は回っているので、「どの経度にいるか」は「いま何時か」と切り離せないからです。東へ進んでも西へ進んでも、頭上の空はほとんど同じように見えます。
だから経度を知るには、2つの場所の時刻を同時に比べるしかありませんでした。
1時間のずれ=経度15度
地球は24時間で1回転(360度)します。ここから比が出ます。
360度 ÷ 24時間 = 15度/時間
24時間 ÷ 360度 = 4分/度
| 時刻の差 | 経度の差 | 赤道上での距離のめやす |
|---|---|---|
| 1時間 | 15度 | 約1,670 km |
| 4分 | 1度 | 約111 km |
| 1分 | 15分(角度) | 約28 km |
| 1秒 | 15秒(角度) | 約460 m |
やり方はこうです。船に出発地の時刻のまま動き続ける時計を積んでおく。航海中、太陽がいちばん高くなった瞬間(現地の正午)に、その時計を見る。時計が午後3時を指していれば、出発地より3時間ぶん西、つまり経度45度ぶん西へ来た、と分かります。
原理は驚くほど単純です。問題は、船の上で何か月も狂わない時計を作れるかでした。
振り子時計は揺れる船の上では使えません。温度や湿度が変わると金属は伸び縮みし、時計は狂います。「1秒の狂いが約460 mの誤差」という表を見れば、どれほど厳しい要求だったかが分かります。
賞金がかけられた「経度の問題」
1714年、イギリスの議会は経度法(Longitude Act)を定め、海上で経度を実用的な精度で決める方法に賞金を出すと発表しました。最高賞の条件は、西インド諸島までの航海で誤差が経度の半度以内、つまり赤道換算でおよそ30海里(約56 km)以内に収まること。当時としては、途方もない要求でした。
ここに挑んだのが時計職人のジョン・ハリソンです。彼はH1からH3までの大型の海洋時計を作った末、H4という直径13 cmほど・重さ約1.45 kgの大きな懐中時計にたどりつきます。
1761年11月、H4は息子ウィリアムとともにジャマイカへ向けて出航しました。1762年1月に到着した時点で、H4の遅れはわずか5.1秒。経度にしておよそ1海里に相当します。要求されていた30海里の、30分の1です。
審査側はこれを偶然ではないかと疑い、2度目の試験を求めました。1764年のバーバドス航海では、47日間で誤差39.2秒。それでも要求精度の3倍以上の成績でした。
もうひとつの解法も同時に進んでいました。月距法です。月は星々のあいだを比較的速く動くので、月と特定の星との角距離を測れば、それを「空に浮かぶ時計」として読むことができます。天文学者ネヴィル・マスケリンらがこの方法を整備し、1767年から刊行された航海暦がそれを実用にしました。ただし観測と計算に長い手間がかかり、時計を見るだけで済むクロノメーターに、やがて主役の座を譲っていきます。
GNSSも、やっていることは同じ
ここからが本題です。現代のGNSS(GPS・みちびきなど)が位置を出すしくみは、時刻を比べているという点で、クロノメーターの延長線上にあります。
衛星は原子時計を積んでいて、「いま何時何分何秒に、この信号を送った」という情報を電波に載せて発信します。受信機は、それが届いた時刻との差を測ります。電波は光の速さで進むので、
(届いた時刻 − 送った時刻)× 光の速さ = 衛星までの距離
で距離が出ます。この距離が3つあれば、原理上は位置が決まります。
ところが問題があります。受信機に積まれているのは原子時計ではなく、安価な水晶時計です。光の速さは秒速約30万kmですから、受信機の時計が1マイクロ秒(100万分の1秒)ずれるだけで、距離は約300 m狂います。船乗りが「1秒=460 m」と戦ったのと、桁は違えど同じ構図です。
GNSSはこれを、測るのではなく解くことで乗り越えました。位置(3つの未知数)に「受信機の時計のずれ」を4つめの未知数として加え、衛星を4機以上使って連立方程式として一緒に解くのです。だからGNSSには最低4機の衛星が要ります。

- なぜGNSSは4機以上の衛星が必要なのか — 4機目が「時計のずれ」を解くための1機である理由を図解しています
つまり現代の受信機は、ハリソンのクロノメーターを積む代わりに、上空の原子時計を借りて、自分の時計の狂いをその場で計算し直しているわけです。船が港の時刻を持ち歩いたのに対し、GNSSは正確な時刻のほうから降ってくる、という違いです。
「時刻の基準」は、いまも位置の基準
時刻と位置が切り離せない関係は、現代の制度にもそのまま残っています。
日本の標準時が東経135度なのは、経度15度ごとに1時間という同じ比のうえに立っています。世界の標準時が経度で区切られているのも同じ理屈です。
- 日本の標準時はなぜ東経135度? — 経度15度で1時間ずれる関係を、日本の時刻制度の側から見ています
そして、経度をどこから数え始めるかという基準そのものにも、天文台という「時刻を決める場所」の歴史が刻まれています。
- 本初子午線はどこを通る? — グリニッジ天文台とGPSの経度0度が約100mずれている理由です
さらにGNSSの世界では、うるう秒の扱いが位置に影響します。GPS時刻とUTCのあいだには秒単位の差があり、これを取り違えると時刻から計算される衛星位置がずれます。
- GPS時刻とUTCが18秒ずれているのはなぜ? — うるう秒を入れない時系がなぜ必要かの話です
まとめ
- 昔の船は、出発地の時刻を刻む時計と現地の太陽の南中時刻を比べて経度を求めた
- 1時間の差=経度15度、1秒の差=赤道でおよそ460 m。時計の精度がそのまま位置の精度になる
- 1714年の経度法が挑戦を促し、ジョン・ハリソンのH4は1761〜62年のジャマイカ航海で5.1秒の遅れにとどまった
- 天文による月距法も実用化されたが、手間の少ないクロノメーターが主流になった
- GNSSも時刻の差で距離を測っている。受信機の時計は精度が低いため、4機目の衛星でそのずれを解く
- 標準時・本初子午線・うるう秒——時刻の基準は、いまも位置の基準である
出典
- Royal Museums Greenwich「Longitude found – the story of Harrison’s timekeepers」 https://www.rmg.co.uk/stories/time/harrisons-clocks-longitude-problem
- Science Museum Group Collection「John Harrison」 https://collection.sciencemuseumgroup.org.uk/people/cp37423/john-harrison
- Royal Observatory Greenwich「John Harrison and the Longitude problem」 http://pro.unibz.it/staff2/fzavatti/corso/harrison.html
- Linda Hall Library「Scientist of the Day – John Harrison」 https://www.lindahall.org/about/news/scientist-of-the-day/john-harrison/
記載は2026年8月時点の公開資料にもとづく整理です。距離のめやすは赤道上の概算値で、実際の1度あたりの距離は緯度によって変わります。
次に確認する
- GNSSが4機以上の衛星を必要とする理由を確認する — 4機目が「受信機の時計のずれ」を解くための1機です
- 緯度・経度の「1度」が何メートルになるかを確認する — 経度1度の距離が緯度で変わるしくみです
- 伊能忠敬が江戸時代に日本地図をどう作ったかを確認する — 同じ時代、経度をどう扱ったかの日本側の話です
- RTKが基準局との時刻・位相差をどう使っているかを確認する(GeoDiveExa) — 「波の数を数える」cm級測位への発展です
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第1章「緯度と経度のきほん」(Kindle Unlimited対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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