
日本の標準時はなぜ東経135度? — 経度15度で1時間ずれる理由と、測地系で約260m動いた子午線
135が15でちょうど割り切れる(135 ÷ 15 = 9)からです。地球は24時間で1回転するので、経度15度ぶんで時刻が1時間ずれます。日本の国土のだいたい真ん中を通り、なおかつ15の倍数になる経線が東経135度だった。だから日本標準時はグリニッジ標準時ちょうど+9時間になりました。そしてこの「東経135度」の線は、測地系が変わったときに地上で約260mも動いています。
経度15度で1時間、という約束
地球は1日(24時間)で1回転します。1回転は360度です。
$$
360 \div 24 = 15
$$
つまり経度15度ぶん東へ行くごとに、太陽の南中が1時間早くなる。これが世界の標準時が15度刻みで置かれている理由です。
| 標準子午線 | 標準時 | 例 |
|---|---|---|
| 経度0度 | UTC±0 | イギリス |
| 東経15度 | UTC+1 | ドイツ・イタリア |
| 東経120度 | UTC+8 | 中国・シンガポール |
| 東経135度 | UTC+9 | 日本 |
| 東経150度 | UTC+10 | オーストラリア東部 |
もし日本が東経140度を基準にしていたら、時差は9時間20分という半端な値になります。世界中の時刻表と噛み合いません。「国土の中央付近」と「15の倍数」の両方を満たす線が、日本では東経135度だった、というだけの話です。
いつ決まったのか
日本が東経135度を標準時の基準に定めたのは明治19年(1886年)の勅令によるもので、施行は明治21年(1888年)1月1日からです。それまで各地でばらばらだった時刻が、全国で1つに揃いました。
背景には鉄道と電信があります。土地ごとの「お日さまの時刻」で列車を走らせると衝突します。全国を1つの時計で動かす必要が生まれたことが、標準時の直接の動機でした。
東経135度線はどこを通るか
「日本標準時=明石」と覚えている人が多いと思いますが、東経135度の子午線は明石市だけを通っているわけではありません。京都府北部の日本海側から兵庫県を縦断し、明石海峡を越えて淡路島、そして和歌山県へと、本州・淡路島の複数の市を貫いています。
このうち明石市が「子午線のまち」として広く知られているのは、
- 市街地のど真ん中を子午線が通っている
- 東海道・山陽の主要幹線沿いで人目に触れやすい
- 子午線上に明石市立天文科学館(1960年開館)が建てられ、標識と時計塔が象徴になった
といった条件が重なったからです。実際には沿線の各市にも子午線標識が立っています。
ここからが測地系の話 — 「本当の135度」は動いた
面白いのはここからです。東経135度という数字は変わっていないのに、その線が地上のどこを通るかは変わりました。
理由は、日本が2002年に旧日本測地系から世界測地系(JGD2000)へ切り替えたことです。
- 旧日本測地系は、明治期に日本国内の観測から作られた「日本用の座標のものさし」
- 世界測地系は、人工衛星の観測にもとづく地球全体の重心を基準にしたものさし
- 同じ地点でも、両者では緯度・経度の値が数百mぶん違う
この差のぶんだけ、「経度がちょうど135度00分00秒になる場所」も移動します。明石付近では、世界測地系の東経135度線は、旧日本測地系の135度線よりおよそ260m東を通ります。
地面は動いていません。ものさしが変わっただけです。それでも「ここが東経135度です」と書かれた標識の足元は、ある日を境に東経135度ではなくなりました。
さらに古い話をすると、日本経緯度原点の経度は大正時代にも見直されており、そのたびに子午線の位置は数百mの単位で動いてきました。東経135度の標識が明石周辺に複数あるのは、時代ごとの「そのときの135度」がそれぞれ記念されているからです。

GeoPrism JP のズレマップでは、日本全国どこでも「旧日本測地系と世界測地系で座標がどれだけ違うか」を地図の上で見ることができます。明石のあたりにピンを置くと、時刻の話が測地系の話につながっていることが実感できます。
標準時の「時刻」と、GNSSの「時刻」は別もの
ついでに紛らわしい点を整理しておきます。
| 時系 | 何を基準にするか | 日本標準時との関係 |
|---|---|---|
| 日本標準時(JST) | 協定世界時(UTC)+9時間 | そのもの |
| 協定世界時(UTC) | 原子時に閏秒を入れて地球の自転に合わせたもの | JST − 9時間 |
| GPS時 | 原子時のまま。閏秒を入れない | UTCとの差が年々開いていく |
東経135度という経度が決めているのは「+9時間」という差だけで、時刻そのものの刻み方は原子時計が決めています。子午線は「どこを基準に9時間ずらすか」を決める役割です。
まとめ
- 地球は24時間で360度回るので、経度15度=1時間
- 東経135度は「国土の中央付近」かつ「15の倍数」を満たす線。だから日本標準時はUTC+9
- 制定は明治19年(1886年)、施行は明治21年(1888年)1月1日
- 子午線は明石だけでなく、京都府北部から兵庫県・淡路島・和歌山県までを貫いている
- 測地系が旧日本測地系から世界測地系に変わったとき、明石付近で東経135度線は約260m東へ動いた。地面ではなくものさしが変わった
出典
- 明石市立天文科学館「東経135度と日本標準時」 https://www.am12.jp/135-jstm/
- 明石市立天文科学館「明石と子午線」 https://www.am12.jp/akashi-shigosen/
- 国土地理院「日本の測地系」 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/datum-main.html
- 情報通信研究機構(NICT)日本標準時プロジェクト https://jjy.nict.go.jp/
「約260m」は明石付近での概略値で、緯度によって変わります。年号・数値の記載は2026年8月時点で公表されている資料に基づきます。
次に確認する
- 経度0度の線が2本あることを確認する — 明石の135度と同じ話が、本家グリニッジでも約102mのずれとして起きています
- 旧日本測地系と世界測地系で座標が約400m違う理由を確認する — 本記事「ものさしが変わった」の中身を4択で確かめられます
- 日本の緯度・経度の出発点がどこにあるのかを確認する — 経緯度原点が動くと全国の座標が動く筋道です
- 経度1度が何メートルになるのかを確認する — 「15度で1時間」を距離に直すとどうなるかが分かります
- GPS時とUTCが18秒ずれている理由を確認する — 本記事の時系の表を掘り下げた回です
- 旧測地系の図面を今の座標へ直す実務手順を確認する(GeoConverter Pro) — 「約260m動いた」を実際のデータで処理する話です
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第6章「400mの謎——TOKYOから世界測地系へ」(Kindle Unlimited対応)
入門から通しで読むなら: 『日本の測地系がわかる本』 — 旧日本測地系から JGD2024 まで、座標がズレる理由と実務での扱いを1冊にまとめました(Kindle Unlimited 対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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