
【クイズ解説⑮】「海抜3m」と「標高3m」は同じ高さ? — 基準になる海面のちがい
GeoPrism JP の「学ぶ・クイズ」から毎回2問ほどを取り上げて解説する連載、第15回です。第14回は元期と今期のちがいを扱いました。
今回のテーマは 海抜と標高。街の防災看板と地形図に、同じ「3m」が書かれていたとして、それは同じ高さなのか——という話です。結論から言えば、実務上はほぼ同じ高さを指しますが、定義上の基準は違います。 そして「海面を基準にした高さ」はこの2つだけではありません。じっくり2問。

第1問:「海抜」と「標高」の関係として正しいものは?
防災看板の「海抜3m」と、地形図の「標高3m」。この2つの関係を正しく説明しているのは次のうちどれですか。
- 海抜は満潮時の海面から、標高は干潮時の海面から測った高さである
- 海抜はその地点の近くの平均海面、標高は東京湾平均海面が基準。定義は違うが、実務上はほぼ同じ高さを指す
- 海抜は建物の高さを含み、標高は地面だけの高さである
- 海抜は海沿いだけで使う語で、内陸では数値そのものが存在しない
正解:2(近くの平均海面か、東京湾平均海面か。実務上はほぼ同じ)
なぜそうなるのか
「標高」は、日本全国で統一された基準面である 東京湾平均海面(T.P.:Tokyo Peil) からの高さです。全国どこであっても、この1つの面が0mです。
一方「海抜」は、本来の定義ではその地点の近くの海の平均海面を基準にした高さを指します。防災看板が「海抜」を使うのは、「いま自分が立っている場所は、すぐそこの海面よりどれだけ高いか」を直感的に伝えたいからです。津波・高潮のリスクを伝えるうえで、こちらの言い方のほうが体に入りやすい。
ただし日本の場合、この2つが大きく食い違うことはありません。実際の数値は東京湾平均海面を基準にした測量成果から得られており、「防災の文脈では海抜、測量・地図の文脈では標高」という使い分けの慣習、と捉えるのが実態に近い。看板の3mと地形図の3mは、同じ高さだと思ってよいということです。
選択肢のどこが違うか
- 1:満潮・干潮は「平均海面」ではありません。どちらの語も平均の海面を基準にしています
- 3:どちらも地面の高さです。建物を含む高さは「標高+建物の高さ」として別に扱います
- 4:内陸でも標高はあります。「海抜」の語をあまり使わないだけで、高さそのものは存在します
東京湾平均海面は、日本水準原点(東京都千代田区)の標高 24.3900m を通じて全国の水準点へ伝えられています。この値は関東大震災後と、2011年の東北地方太平洋沖地震後の2回、改定されています。「基準の面」も、地面が動けば測り直される、ということです。
第2問:海図に書かれている「水深」の基準面はどれ?
海図に「水深40m」と書かれているとき、その40mはどこから測った深さですか。
- 東京湾平均海面(標高と同じ基準)
- 観測したその日その時刻の海面
- 最低水面(略最低低潮面)——これ以上は潮が引かないと想定される面
- 海底の最も深い地点からの相対値
正解:3(最低水面/略最低低潮面)
なぜそうなるのか
海図の水深は、船が安全に通れるかを判断するための数字です。だとすれば、最も条件の悪いとき——最も潮が引いたときを想定して書いておかなければ意味がありません。そこで海図は、「これより下がることはまずない」という低めの潮位を基準面(最低水面、略最低低潮面)として採用しています。
つまり実際の水深は、たいてい海図の数字より深い。安全側に倒してある、ということです。
その代わり、標高の基準面(平均海面)と水深の基準面(最低水面)はズレています。陸の高さと海の深さを1つの断面図につなげたいとき、この差を無視すると全体が合いません。潮位差の大きい海域ほど、この差は大きくなります。
選択肢のどこが違うか
- 1:平均海面を使うと、干潮時に「海図より浅い」場所が出てしまい、航行の安全に使えません
- 2:観測時刻の海面を基準にすると、同じ場所の水深が日によって変わってしまいます。なお津波の高さはこちらの考え方(そのときの平常潮位からの上昇量)で、基準面が固定されていません
- 4:海底からの相対値では、水面までの余裕が分かりません
「海面からの高さ」は1つではない
今回の2問をまとめると、こうなります。
| 言葉 | 基準にしている面 | 主に使う場面 |
|---|---|---|
| 標高 | 東京湾平均海面(T.P.) | 地形図・測量 |
| 海抜 | その地点の近くの平均海面(実務上はほぼ標高と同じ) | 防災・避難 |
| 水深(海図) | 最低水面(略最低低潮面) | 航海 |
| 津波の高さ | そのときの平常潮位(固定されていない) | 気象・防災情報 |
さらに河川や港湾では、A.P.(荒川工事基準面)・O.P.(大阪湾最低潮位)といった地域ごとの高さゼロも現役で使われています。図面ごとに「高さゼロ」が違う、というのはよくある話です。

GeoPrism JP のジオイド表示では、GNSSが直接出す楕円体高と、地図が使う標高、その差であるジオイド高の関係を数値で確認できます。今回の「基準面がいくつもある」という話は、その一段手前にある感覚です。高さの数字を見たら、まず「どこを0mにした数字か」を確かめる。それだけで読み違いはかなり減ります。
出典
- 国土地理院「平均海面・水準基準」 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/suijun-kijun.html
- 国土地理院 KIDS「標高と海抜と水準点」 https://www.gsi.go.jp/KIDS/KIDS06.html
- 海上保安庁「平均水面、最高水面及び最低水面の高さ」 https://www1.kaiho.mlit.go.jp/TIDE/datum/
- 気象庁「津波について」 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq26.html
基準面の差は場所によって異なります。具体的な地点の数値は、上記の一次資料または管轄機関の公表値をご確認ください。
次に確認する
- 海抜と標高の違いを、断面図と4つの基準面で詳しく確認する — 本クイズのもとになった解説記事です
- 楕円体高・標高・ジオイド高の関係を図で確認する — GNSSの高さがそのまま標高にならない理由です
- 離島の標高は何を0mにしているのかを確認する — 東京湾平均海面を持ち込めない場所の話です
- T.P.・A.P.・O.P.・Y.P.を実務でどうそろえるかを確認する(GeoConverter Pro) — 図面ごとに違う「高さゼロ」の変換手順です
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第8章「標高・ジオイド・海面」(Kindle Unlimited対応)
入門から通しで読むなら: 『日本の測地系がわかる本』 — 旧日本測地系から JGD2024 まで、座標がズレる理由と実務での扱いを1冊にまとめました(Kindle Unlimited 対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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