
体重は赤道と北極で違う? — 重力が場所で変わる理由と、標高・ジオイドとのつながり
違います。同じ人がバネばかりに乗ると、北極では赤道より約0.5%重く表示されます。 体重60kgなら、およそ 0.32kg 分。体そのものは何も変わっていません。変わったのはその場所の重力です。理由は2つ、地球が回っていることと、地球が真球ではないこと。そしてこの「場所で違う重力」こそが、測量で使う標高とジオイドの土台になっています。
緯度で重力はどれだけ変わるか
重力の強さは、地球楕円体の上での理論値として計算できます。GRS80 楕円体に基づく正規重力の値を緯度ごとに並べると、こうなります。
| 緯度 | 正規重力(m/s²) | 赤道との比 |
|---|---|---|
| 0度(赤道) | 9.780327 | — |
| 35度(日本付近) | 9.797337 | +0.17% |
| 45度 | 9.806199 | +0.26% |
| 60度 | 9.819178 | +0.40% |
| 90度(極) | 9.832186 | +0.53% |
赤道と極の差は 0.0519 m/s²。割合にすると 0.53% です。中学校で習う「g = 9.8 m/s²」という値は、だいたい緯度45度あたりの数字だということも分かります。
体重計の話に戻すと、バネばかりが測っているのは質量ではなく、体にはたらく力です。だから緯度を変えると読みが変わります。60kgの人が赤道から極へ移動すると、表示は約 60.32kg。逆に極から赤道へ行けば約 59.68kg になります。
ちなみに、電子体重計の多くは内部で「g = 一定」として力を質量に直しています。だから旅行先で数字が変わるのは原理上の話で、日常で体感することはほとんどありません。日本国内(北緯24度〜45度)でも重力は約0.2%違います。
理由1:地球が回っているから(遠心力)
地球は約24時間で1回転しています。赤道上の地面は秒速約465mで動いており、そこに立っている人には外向きの遠心力がはたらきます。この力は重力を打ち消す向きなので、その分だけ「軽く」なります。
遠心力の大きさは自転軸からの距離で決まります。赤道が最大で、極では自転軸の真上なのでゼロ。緯度が上がるほど遠心力の効果は小さくなり、そのぶん重力の読みが増えていきます。
理由2:地球が真球ではないから(扁平)
もう一つは地球の形です。地球は自転のために赤道方向へふくらんだ回転楕円体で、赤道半径が約6,378km、極半径が約6,357km。その差は約21kmあります。
万有引力は距離の2乗に反比例するので、地球の中心から遠い赤道では引力が弱く、近い極では強くなります。遠心力の効果と同じ向きに効くので、2つの理由が重なって「極ほど重い」という結果になります。
寄与の割合はおおむね、遠心力が3分の2、扁平が3分の1です。
理由3:高いところほど軽い(標高)
もう一段、身近な効き方があります。地表から上へ離れるほど重力は弱くなります。地球の中心から遠ざかるからです。
その割合は、地表付近でおおむね 1mあたり 0.000003086 m/s²(フリーエア勾配)。1,000m 登ると約 0.0031 m/s² 減ります。
富士山頂(標高3,776m)で計算してみると——
| 場所 | 重力(m/s²・緯度35度の理論値ベース) |
|---|---|
| 海面上 | 9.797337 |
| 標高3,776m | 9.785685 |
差は 0.01165 m/s²、割合で 0.119%。体重60kgの人なら、山頂では海面より約 71g 軽く表示される計算です。緯度による差(0.53%)と比べると小さいものの、精密な重力測定ではまったく無視できません。
そして実際の重力は、これに地面の下に何があるか(密度の高い岩体、地下の空洞、山体の質量)まで効いてきます。理論値との差が重力異常で、地下構造を探る手がかりになります。
ここから測地系の話につながる
「重力が場所で違う」という事実は、雑学で終わりません。標高の基準が重力で決まるからです。
標高(海抜)の基準面はジオイド——重力の等ポテンシャル面で、平均海面を陸の下まで延長した面です。「等ポテンシャル面」とは、その面に沿って動いても位置エネルギーが変わらない面のこと。水が自然に止まる面、と言い換えてもよいでしょう。

重力が場所で違うということは、この等ポテンシャル面がでこぼこになるということです。重力が強い場所では面が引き寄せられ、弱い場所では膨らむ。だからジオイドは、なめらかな楕円体から最大で数十メートルずれます。日本付近のジオイド高はおよそ 12〜52m の範囲に分布します。

つまり流れはこうです。
- 地球は回っていて、真球ではない → 重力が場所で違う
- 重力が違うから、等ポテンシャル面がでこぼこになる
- そのでこぼこの面がジオイド
- ジオイドからの高さが標高
- GNSS が出すのは楕円体からの高さ(楕円体高)なので、ジオイド高を引かないと標高にならない
「GNSS の高さがそのまま標高にならない」という実務上の面倒は、もとをたどれば地球が回っていることに行き着きます。
「重さ」と「質量」を分けて考える
最後に、言葉の整理を。
| 何か | 場所で変わるか | 単位 | |
|---|---|---|---|
| 質量 | その物体に含まれる量 | 変わらない | kg |
| 重さ(重力) | 質量にはたらく力 | 変わる | N(ニュートン) |
体重計の「kg」表示は、力を測って「標準的な g で割った質量相当」を出しているものです。だから厳密には、体重計の読みは緯度と標高の関数になります。
ちなみに、天秤ばかりなら場所が変わっても読みは変わりません。分銅にも同じ重力がかかるので、比べている限り打ち消し合うからです。バネばかりと天秤ばかりの違いは、この記事の内容そのものを実験している、とも言えます。
まとめ
- 重力は緯度で約 0.53% 違う(赤道 9.780 m/s²、極 9.832 m/s²)。体重60kgなら約 0.32kg 分
- 理由は遠心力(赤道で最大・極でゼロ)と地球の扁平(赤道半径と極半径の差 約21km)
- 標高でも変わる。1mあたり約0.000003086 m/s² 弱くなり、富士山頂では約0.12%、60kgで約71g軽い
- 重力が場所で違うから、等ポテンシャル面であるジオイドはでこぼこになる
- 標高はそのジオイドからの高さ。だから GNSS の楕円体高からジオイド高を引かないと標高にならない
- 質量は変わらない。変わるのは、質量にはたらく力のほう
GeoPrism JP は、ジオイド高の分布や測地系ごとの座標のズレを地図の上で見て確かめられる iOS アプリです。「同じ場所なのに高さの値が違う」という話は、ジオイドの起伏を実際に地図で動かしてみると腑に落ちます。
出典
- Geodetic Reference System 1980(正規重力式・楕円体定数) — International Association of Geodesy: https://iag.dgfi.tum.de/fileadmin/IAG-docs/Travaux19/07_geodeticreferencesystem.pdf
- 重力について — 国土地理院: https://www.gsi.go.jp/buturisokuchi/grasrv_alldata.html
- ジオイド・ジオイドモデル — 国土地理院: https://www.gsi.go.jp/buturisokuchi/geoid2011_00.html
- 世界測地系 — 国土地理院: https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/datum-main.html
本記事で計算した値(GRS80 の正規重力式〔ソミリアナの式〕を python3 で計算)
| 値 | 根拠 |
|---|---|
| 赤道 9.780327 / 極 9.832186 m/s² | GRS80 の定数(γe・γp・a・b)をそのまま使用 |
| 緯度35度 9.797337 m/s² | 同式に φ=35° を代入 |
| 極−赤道 = 0.05186 m/s²(比 1.00530) | 上記2値の差と比 |
| 60kg → 極で +0.32kg 相当 | 60 × (γp/γe − 1) |
| 富士山頂 9.785685 m/s² | 緯度35度の値 − 0.3086 µm/s²/m × 3,776m |
| 同・60kgで約 −71g | 60 × 0.001189 |
次に確認する
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- 楕円体高から標高へ変換するには(GeoConverter Pro) — 実際にジオイド2024を使って高さを変換する手順です
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第8章「標高・ジオイド・海面」(Kindle Unlimited対応)
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