
【クイズ解説⑯】三角測量の出発点「基線」は何メートル? — たった5kmから全国へ広げた方法
GeoPrism JP の「学ぶ・クイズ」から毎回2問ほどを取り上げて解説する連載、第16回です。第15回は海抜と標高の違いを扱いました。
今回のテーマは 三角測量の基線。「距離は1本だけ測って、あとは角度で広げる」というのが三角測量ですが、その1本は具体的にどれくらいの長さだったのか。そして、そんな短い1本から、どうやって日本全国の座標を決められたのか。2問でたどります。

第1問:日本の三角測量の出発点「相模野基線」の長さは?
明治15年(1882年)、神奈川県に日本の近代三角測量の出発点となる基線が設けられました。その長さはおよそどれくらいでしょうか。
- 約520m
- 約5.2km
- 約52km
- 約520km
正解:2(約5.2km)
なぜそうなるのか
相模野基線の測定値は 5209.9697m。明治15年の9月から10月にかけて測られました。北端は下溝村の三角点(現在の相模原市南区麻溝)、南端は座間村の三角点(現在の座間市ひばりが丘)です。設定したのは陸軍参謀本部測量課——のちの陸地測量部、現在の国土地理院にあたる組織です。
全国を覆う測量網の出発点が、わずか5km。ここが三角測量の面白いところです。
長い距離を正確に測るのは、当時は極端に難しい作業でした。地面の起伏、測る道具の伸び縮み、温度による変化——距離が長くなるほど誤差が入り込みます。ですから「精密に測れる長さ」に絞って、そこだけを徹底的に丁寧に測る。5kmという長さは、当時の技術で mm 単位に迫る精度を出せるぎりぎりの妥協点でした。
では、5kmをどうやって全国に広げたのか
ここが第2の工夫です。5kmの基線から、いきなり数十km離れた山頂どうしの三角形は作れません。そこで、基線を一辺とする細長い三角形を作り、少しずつ大きな三角形へ乗り換えていくという段階を踏みます(基線から三角網の辺へ拡大していくしくみです)。
- 基線(約5km)を一辺とする三角形の、もう一辺の長さを角度から計算する
- その辺を使って、さらに大きな三角形の辺を計算する
- これを繰り返し、一等三角点どうしを結ぶ数十km級の辺にまで到達する
- そこから先は、三角形をつないで全国へ
「精密に測れる短い1本」を、計算だけで「測れない長い辺」に育てていく。三角測量の本質は、この拡大の手順にあります。
選択肢のどこが違うか
- 1(約520m):短すぎます。ここから数十km級の辺へ拡大すると、角度のわずかな誤差が拡大率ぶん大きく効いてしまいます
- 3(約52km):明治期の技術で、この長さを必要な精度で直接測るのは現実的ではありません
- 4(約520km):本州を縦断するような長さで、そもそも一直線の見通しが取れません
第2問:三角点が山頂に多く、電子基準点が平地にあるのはなぜ?
三角点は山頂や見晴らしの良い高台に置かれていることが多いのに、電子基準点は学校の敷地など平地にあります。この違いの理由として正しいのはどれでしょうか。
- 山頂のほうが地盤が固く、動かないから
- 三角点は他の点を「見通す」必要があったが、GNSSは点どうしの見通しが不要で、上空さえ開けていればよいから
- 三角点は標高を測るための点なので、高い場所でなければ意味がないから
- 電子基準点は電源と通信回線が要るので、山頂には設置できないから
正解:2(見通しが要るか、上空視界が要るかの違い)
なぜそうなるのか
三角測量は、点から点へ角度を測る方法です。つまり、測りたい相手が見えていなければ測れません。山頂に石標が置かれ、ときに櫓(やぐら)を組んでまで高さを稼いだのは、遠くの三角点まで視線を通すためでした。三角点の位置は、地形と見通しに強く縛られていたわけです。
GNSSは、この制約を根本から外しました。衛星測位では、それぞれの点が空を見て、単独で座標を決めます。隣の点が見えている必要はまったくありません。必要なのは上空の視界だけです。
その結果、電子基準点は「見通し」ではなく「管理のしやすさ」で置けるようになりました。学校や公共施設の敷地に多いのはそのためです。
| 三角点 | 電子基準点 | |
|---|---|---|
| 必要な条件 | 他の三角点への見通し | 上空が開けていること |
| 置かれる場所 | 山頂・高台 | 学校・公共施設などの平地 |
| 座標の決まり方 | 隣の点からの角度でつないで決まる | 衛星からその点だけで決まる |
| 誤差の性質 | つなぐほど積み上がる | 点ごとに独立、積み上がらない |
この右の列が、旧日本測地系のズレが全国一律ではない理由にもつながります。つないで決めた座標には、つないだぶんのひずみが残るのです。
選択肢のどこが違うか
- 1:山頂だから動かない、ということはありません。むしろ山地は地すべりや隆起の影響を受けることもあります
- 3:三角点が主に決めるのは水平位置です。標高を精密に決める役割は水準点が担っています
- 4:電源・通信は設置条件のひとつではありますが、本質ではありません。実際、離島や山間部にも電子基準点はあります
5kmから始まった座標が、いまも残している跡
今回の2問をまとめると、こうなります。
- 三角測量は、精密に測れる短い基線1本(相模野基線は約5.2km)から出発する
- そこから三角形を段階的に大きくして、数十km級の辺へ広げていく
- 点の位置は見通しで決まる。だから三角点は山頂に多い
- GNSSは点どうしの見通しを不要にした。だから電子基準点は平地に置ける
- つないで決めた座標にはひずみが残る。GNSSはこの構造そのものを変えた

GeoPrism JP のズレマップでは、旧日本測地系と世界測地系のズレを地図上のベクトルとして描けます。倍率を上げていくと、向きと大きさが地域ごとに少しずつ違うのが見えてきます。あれが、5kmの基線から角度で広げていった時代の跡です。150年近く前の測量の癖が、いまの座標変換のしくみを決めている——そう思って見ると、地図の見え方が少し変わります。
出典
- 相模野基線 | Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%B8%E6%A8%A1%E9%87%8E%E5%9F%BA%E7%B7%9A
- 神奈川県「相模野基線南端」 https://www.pref.kanagawa.jp/docs/u5r/cnt/f550/tabi-150.html
- 国土地理院「測量の基準点」 https://www.gsi.go.jp/kizyunten.html
- 国土地理院「電子基準点とGEONET」 https://www.gsi.go.jp/kanshi/index.html
- 国土地理院「日本の測地系」 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/datum-main.html
年代・距離は公表資料にもとづく数値です。三角点の辺長や設置条件は等級・地域によって異なります。正確な数値は国土地理院の一次情報でご確認ください。
次に確認する
- 三角測量から衛星測位までの流れを図で詳しく確認する — 本クイズのもとになった解説記事です
- 三角測量の網に残ったひずみを地図上のベクトルで見てみる — 「つないだ跡」が実際にどう見えるかです
- 水準点・三角点・電子基準点の役割の違いを確認する — 第2問の3つの基準点をクイズ形式で整理しています
- 伊能忠敬の地図がどれだけ正確だったかを確認する — 三角測量より前の時代の「つないで測る」方法です
- 三角点で決めた旧測地系の図面を、いまの座標に直す手順を確認する(GeoConverter Pro) — ひずみを含む座標を実務でどう扱うかです
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第3章「富士山と伊能忠敬」(Kindle Unlimited対応)
入門から通しで読むなら: 『日本の測地系がわかる本』 — 旧日本測地系から JGD2024 まで、座標がズレる理由と実務での扱いを1冊にまとめました(Kindle Unlimited 対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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