
みちびきの軌道は1種類ではない — 準天頂・静止・準静止を図で学ぶ
「みちびき」は準天頂衛星システムと呼ばれます。名前からすると、すべての衛星が日本の真上あたりを飛んでいるように聞こえます。ところが実際には、みちびきの衛星は複数の異なる軌道に分かれて配置されています。
2026年8月11日に打ち上げられた7号機は「準静止軌道」に投入される衛星です。この耳慣れない言葉をきっかけに、みちびきが使う3種類の軌道を整理してみます。測位のしくみを学ぶうえで、「衛星がどこをどう飛ぶか」は精度の話に直結する、意外と大事な基礎知識です。
そもそも「静止」できない理由
まず出発点として、衛星は日本の真上に止まっていられません。
地球のまわりを回る衛星は、地球の引力と、円運動によって外向きに働く力がつり合うことで軌道を保っています。この2つの力は地球の中心方向で向かい合うので、つり合いが取れる円軌道は地球の中心を含む面の上にしか作れません。
日本(北緯およそ35度)の真上に止まろうとすると、衛星は地球の中心を通らない円を描くことになり、力がつり合いません。だから「日本の真上に静止した衛星」は原理的に作れないのです。
止まっていられるのは赤道上空だけ。これが静止軌道です。
① 静止軌道 — 赤道の上で止まって見える
赤道上空の高度およそ36,000kmを、地球の自転と同じ周期で回る軌道です。地上から見ると、空の一点に貼り付いたように見えます。
- 日本から見ると、南の空の低いところに見える
- 常に同じ方向にいるので、受信機のアンテナを向けやすい
- ただし仰角が低いため、南側に山やビルがあると遮られやすい
みちびきでは3号機・6号機がこの静止軌道に配置されています。
② 準天頂軌道 — 南北非対称の「8の字」
日本の真上に止まれないなら、できるだけ長く真上付近にいる軌道を作ればいい、という発想が準天頂軌道です。
内閣府の解説によると、その作り方はこうです。まず静止軌道を南北方向に振動させた傾斜静止軌道を考えます。これは地上から見ると南北対称の「8の字」を描きます。そのうえで、北半球側では地球から遠ざけて速度を遅くし、南半球側では地球に近づけて速度を速くする。すると8の字が南北非対称になり、北半球にいる時間が長くなります。
その結果、みちびきの準天頂軌道衛星は北半球に約13時間、南半球に約11時間留まります。日本付近に長居する軌道です。
東京付近から1機を追いかけると、こうなります。
| 仰角 | その仰角以上にいる時間 |
|---|---|
| 70度以上 | 約8時間 |
| 50度以上 | 約12時間 |
| 20度以上 | 約16時間 |
準天頂軌道には3機(初号機後継機・2号機・4号機)が配置されており、8時間ごとに代わる代わる南南東の地平線から現れ、天頂付近でゆっくりループを描き、南南西へ沈んでいきます。3機×8時間=24時間なので、常にどれか1機が仰角70度以上の「ほぼ天頂」にいる計算になります。
「ほぼ」であって「完全な真上」ではない——だから「準」天頂。名前の由来はここにあります。
③ 準静止軌道 — わずかに傾いた静止軌道
7号機が投入されるのが、この準静止軌道です。
静止軌道が赤道上をぴったり回るのに対し、準静止軌道は赤道に対してわずかに傾いて飛びます。そのため地上から見ると、衛星は赤道付近を少しだけ動いているように見えます。完全に止まって見える静止軌道と、大きく8の字を描く準天頂軌道の中間、というイメージです。
3種類を並べて比べる
| 軌道 | 地上からの見え方 | 日本での仰角 | みちびきの配置 |
|---|---|---|---|
| 静止軌道 | 空の一点に止まって見える | 低い(南の空) | 3号機・6号機 |
| 準静止軌道 | 赤道付近をわずかに動いて見える | 低い(南の空) | 7号機 |
| 準天頂軌道 | 南北非対称の8の字を描く | 高い(天頂付近を通る) | 初号機後継機・2号機・4号機 |
なぜ「仰角の高さ」が測位で効くのか
軌道の話が測位精度につながるのは、仰角が高い衛星ほど電波の通り道が有利だからです。
- 遮蔽されにくい:ビル街・山間部・林の縁では、低い仰角の衛星は建物や地形に隠れます。天頂付近の衛星は隠れにくい。
- マルチパスが起きにくい:低仰角の電波は建物の壁や地面で反射した信号(マルチパス)が混ざりやすく、測位を乱します。
- 大気の影響が小さい:斜めに入る電波ほど電離層・対流圏を長く通過します。天頂に近いほど通過距離が短くなります。
- 衛星配置(DOP)が良くなる:衛星が空に散らばっているほど位置の解が安定します。低仰角の衛星ばかりだと解が痩せます。

単独測位・DGPS・RTK・PPPと測位方式が変わっても、どの方式でも「使える衛星がどこにいるか」は土台の条件です。軌道の話は、精度の話の一番下の層にあります。
「7機体制」が何を増やすのか
7号機が加わって7機体制になると、内訳としては準天頂軌道と静止・準静止軌道の衛星が組み合わさった構成になります。ここで注意したいのは、7機体制=天頂付近の衛星が7機、ではないということです。
増えるのは主に次の2つです。
- 測位に使える衛星の総数:GPSなど他のGNSSと組み合わせて使う際、選べる衛星が増えます。
- 補強信号を配信できる経路:センチメータ級測位補強(CLAS)や高精度測位補強(MADOCA-PPP)は、みちびきのL6帯で補強情報を配信します。配信元が増えることは、補強情報を受け取れない時間帯を減らす方向に働きます。
「衛星が増えた=精度が上がった」と単純化せず、どの軌道の衛星が、何を運んでいるのかで捉えると、ニュースの読み方が変わります。
GeoPrism JP で関連する学びを深める
GeoPrism JP は座標のズレや標高の基準を地図で確かめるアプリですが、「その座標がどう測られたか」を理解しておくと、見えている数値の意味が変わります。学習モードでは、測地系・標高・補正のしくみを順を追って学べます。

衛星測位で得た高さがそのまま標高にならない理由や、時間とともに座標が動く理由も、あわせて確認してみてください。
まとめ
- 衛星は日本の真上に静止できない。力がつり合う円軌道は地球の中心を含む面にしか作れないため
- 静止軌道は赤道上で止まって見えるが、日本からは南の低い空に見える
- 準天頂軌道は南北非対称の8の字。北半球に約13時間留まり、3機で天頂付近を交代でカバーする
- 準静止軌道は赤道に対しわずかに傾いた軌道。7号機がここに入る
- 仰角の高さは遮蔽・マルチパス・大気・DOPすべてに効く。軌道の話は精度の話の土台
出典
- 内閣府「みちびきの軌道」 https://qzss.go.jp/overview/services/tech01_orbit.html
- 内閣府「みちびき7号機の概要」 https://qzss.go.jp/7satellite-constellation/qzs-7/outline.html
- 内閣府「みちびき7号機打上げ 特設サイト」 https://qzss.go.jp/7satellite-constellation/
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