
【クイズ解説㉗】日本の裏側はブラジル? — 対蹠点の求め方と、当たる場所・外れる場所を確認する
答えは「住んでいる場所による」です。 東京の真裏は大西洋のまん中で、ブラジルではありません。ところが沖縄や奄美まで行くと、真裏は本当に南アメリカ大陸の陸地になります。この境目がどこにあるのかは、緯度の符号を反転して経度を180度ずらすという2行の計算だけで説明がつきます。2問で確かめます。
第1問:東京都庁の真裏には何がある?
東京都庁(北緯35度41分22秒/東経139度41分30秒)の対蹠点——地球のちょうど反対側の地点には、何があるでしょう。
- ブラジルの内陸部
- 南大西洋(ウルグアイの海岸から東へ1,200kmほどの海上)
- アルゼンチンの陸地
- 南太平洋
正解:2(南大西洋)
なぜそうなるのか
対蹠点の求め方は、拍子抜けするほど単純です。
- 緯度:北緯と南緯を入れ替える(符号を反転する)
- 経度:180度ずらす(東経なら180を引き、西経なら180を足す)
東京都庁でやってみます。
緯度 北緯35度41分22秒 → 南緯35度41分22秒
経度 東経139度41分30秒 − 180度 → 西経40度18分30秒
西経40度18分。南アメリカ大陸の東の端(ブラジルの最東端)でも西経35度ほどですから、西経40度は大陸から東へ外れた海の上です。ウルグアイの海岸からおよそ1,200km。選択肢1と3の陸地は、経度が足りません。
選択肢4の南太平洋が外れる理由も、同じ計算から出ます。東経139度の裏は西経40度=大西洋側であって、太平洋にはなりません。
日本のどこからなら「ブラジル」が当たるのか
ここが面白いところです。同じ計算を南西へずらしていくと、途中で陸地に当たります。
| 地点 | おおよその経度 | 対蹠点の経度 | そこは何か |
|---|---|---|---|
| 札幌 | 東経141度21分 | 西経38度39分 | 南大西洋 |
| 東京都庁 | 東経139度41分 | 西経40度19分 | 南大西洋 |
| 名瀬(奄美大島) | 東経129度30分 | 西経50度30分 | ブラジル南部の陸地 |
| 那覇市役所 | 東経127度41分 | 西経52度19分 | ブラジル・パラナ州の内陸 |
| 与那国島(西崎) | 東経122度56分 | 西経57度04分 | パラグアイ領内 |
境目は東経130度あたりです。そこより西、つまり南西諸島まで来ると対蹠点の経度が西経50度台に入り、南アメリカ大陸に乗ります。本州・北海道は東経135〜145度なので、対蹠点は西経35〜45度——大西洋のまん中にしか届きません。
「日本の裏側はブラジル」という言い回しは、人口の大半が住む本州基準では外れていて、国土の南西端では当たっている。どちらも間違いではなかった、というのが答えです。
第2問:対蹠点へは、どの方角へ進んでも着く?
地球上のある地点から、まっすぐ(進む向きを変えずに)歩き続けます。地球が回転楕円体であることを踏まえると、対蹠点にたどり着けるのはどの方角でしょう。
- どの方角へ進んでも必ず着く。距離もすべて同じ
- どの方角へ進んでも着くが、距離だけ方角によって変わる
- 南北とほぼ東西の4方向だけが着く。距離も方角によって変わる
- 南北の2方向だけが着く
正解:3(南北とほぼ東西の4方向だけ)
なぜそうなるのか
「どの方角でも着く」は、地球が完全な球ならば正しい答えです。球面上をまっすぐ進むと必ず大円(地球を真っ二つにする円)をたどるので、半周すれば必ず反対側の点に着きます。距離もどの方角でも同じ、半周分です。

ところが地球は南北につぶれた回転楕円体です。楕円体上をまっすぐ進む線(測地線)は、一般には出発点と同じ経路には戻ってきません。半周したときには対蹠点からわずかに外れていて、着実に着くのは子午線に沿う南北と、ほぼ東西の4方向だけになります。
距離も変わります。GRS80楕円体で計算すると——
| 進む方向 | 対蹠点までの距離 |
|---|---|
| 南北(子午線に沿う) | 約20,004km(子午線全周40,008kmの半分) |
| 東西(赤道上の場合が最長) | 約20,037km(赤道全周40,075kmの半分) |
南北のほうが約33km短い。 極方向につぶれている分、子午線1周が赤道1周より短いことが、そのまま出ています。
選択肢1が球の答え、選択肢2が「距離だけ違う」という惜しい答え、選択肢4は南北しか認めない厳しすぎる答えです。
おまけ:対蹠点の方角は指させない
第2問の裏返しとして、もうひとつ性質が出てきます。対蹠点の方角は定義できません。 どの方角へ半周しても(ほぼ)着いてしまうので、「あちらの方向です」と指させないのです。地球の裏側を指さすなら、真下しかありません。
楕円体でも「符号反転」は正しい
第1問の計算に戻ると、ひとつ疑問が残ります。地球が楕円体なら、緯度の符号反転では合わないのでは——?
合います。 回転楕円体は地球の重心に対して点対称な形です。地心直交座標(ECEF)で書けば、対蹠点は
(X, Y, Z) → (−X, −Y, −Z)
という原点を挟んだ反転にすぎません。楕円体面上の点を反転した点も、必ず楕円体面上にあります。法線の向きも反転するだけなので、測地緯度の符号反転で正しい対蹠点になります。地心緯度で計算しても同じ点に着きます。
測地緯度と地心緯度の区別が要る場面は多いのですが、対蹠点の計算はどちらでも同じ答えになる数少ない例です。
2問のまとめ
| 問 | 答えの核心 | 数字 |
|---|---|---|
| 第1問 | 緯度は符号反転、経度は180度ずらし | 東京の裏=南緯35度41分/西経40度19分 |
| 第2問 | 楕円体では「まっすぐ」で着くのは4方向 | 南北 約20,004km/東西 約20,037km |
計算そのものは2行ですが、その2行で「言い伝えが当たる場所と外れる場所」が分かれるのが対蹠点の面白さです。
GeoPrism JP では、緯度・経度と楕円体の関係を地図の上で動かしながら確かめられます。
https://apps.apple.com/app/id6780149823
本記事の対蹠点の座標値は、各地点の代表的な緯度経度をもとに符号反転と180度ずらしで算出した参考値です(2026年9月時点)。地点の取り方によって秒単位の値は変わります。距離はGRS80楕円体(長半径6,378,137m、扁平率1/298.257222101)による計算値です。
次に確認する
- 日本の裏側は本当にブラジル? の詳しい解説に戻る — 本クイズのもとになった解説記事です。県内全陸地の対蹠地が陸地なのは沖縄県だけ、という話もこちらにあります
- 経度180度の線がまっすぐ引かれていない理由を確認する — 第1問の「180度ずらす」の行き先で、線が折れ曲がっている事情が分かります
- 地心直交座標(ECEF)と緯度経度の関係を図で確認する — 対蹠点が「原点で反転するだけ」になる座標系の中身です
- 地図の上の直線が最短ではない理由を確認する — 第2問の「まっすぐ進む」が地図の上でどう見えるかが分かります
- 2地点間の距離を計算式で求める方法を確認する(GeoConverter Pro) — 楕円体上の距離を自分で計算する側の実務です
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第1章「緯度と経度のきほん」(Kindle Unlimited対応)
入門から通しで読むなら: 『日本の測地系がわかる本』 — 旧日本測地系から JGD2024 まで、座標がズレる理由と実務での扱いを1冊にまとめました(Kindle Unlimited 対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・公開プロジェクトの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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