
時差に30分・45分の国があるのはなぜ? — 経度15度=1時間のはずが、そうならない理由
経度15度で1時間というのは地球の自転から出てくる比です。けれど標準時は国が決めるもので、自転が決めるものではありません。ネパールのUTC+5:45も、インドのUTC+5:30も、「国土の中央を通る子午線」を素直に採った結果です。15の倍数からずれているのは、その子午線が15の倍数ではなかったから、それだけです。
まず、経度と時間の換算
地球は24時間で360度まわります。割り算をすると、経度と時間の対応はこうなります。
| 経度 | 時間 |
|---|---|
| 360度 | 24時間 |
| 15度 | 1時間 |
| 1度 | 4分 |
| 1分角(1/60度) | 4秒 |
| 1秒角 | 約0.067秒 |

この比は変えようがありません。変えられるのは、どの経度線を「自分の国の正午」の基準にするかだけです。その線を標準時子午線と呼びます。
日本は東経135度を選びました。135 ÷ 15 = 9 なので、UTC+9:00 という切りのいい値になります。兵庫県明石市を通るこの線が有名なのは、「国土の中央付近」と「15の倍数」の両方を満たす線が、日本ではたまたまここだったからです。
15の倍数を選ばなかった国
国土の中央を通る子午線が15の倍数でなければ、時差は30分や45分になります。
| 国・地域 | 標準時 | 備考 |
|---|---|---|
| インド | UTC+5:30 | 標準時子午線は東経82度30分 |
| ネパール | UTC+5:45 | 標準時子午線は東経86度15分 |
| イラン | UTC+3:30 | — |
| アフガニスタン | UTC+4:30 | — |
| ミャンマー | UTC+6:30 | — |
| オーストラリア中部 | UTC+9:30 | 南オーストラリア州・ノーザンテリトリー |
| ユークラ(豪州) | UTC+8:45 | 非公式。人口数十人の集落 |
| ニューファンドランド(カナダ) | UTC−3:30 | — |
| マルキーズ諸島(仏領ポリネシア) | UTC−9:30 | — |
| チャタム諸島(ニュージーランド) | UTC+12:45 | — |
換算表に当てはめると、きれいに合うものがあります。東経82度30分 × 4分 = 330分 = 5時間30分、東経86度15分 × 4分 = 345分 = 5時間45分。インドもネパールも、子午線の経度をそのまま時間に直しただけです。
ネパールが「15分だけ」隣とずらした理由
ネパールの時差がよく話題になるのは、45分刻みの標準時を国全体で使う唯一の国だからです。ネパールがUTC+5:45になったのは1986年1月1日で、それまで使っていたインド標準時(UTC+5:30)から時計を15分進めました。基準にしたのは、ヒマラヤの山ガウリシャンカール付近を通る子午線です。
結果として、インドとネパールの国境をまたぐと時計を15分だけ動かすことになります。1時間でも30分でもなく15分——これは「国土の中央の子午線を採る」という原則を素直に適用した副産物です。
逆に、経度が広いのに時差が無い国
中国は国土が東経73度あたりから135度あたりまで広がっています。経度にして約62度——換算すれば4時間以上の幅がありますが、全土が北京時間(UTC+8、東経120度基準)の一つだけです。
西端では、時計が正午を指しても太陽はまだ東の空にあります。標準時は天文ではなく社会の都合で引かれる線だ、ということがよく分かる例です。
世界の時差は「25時間ぶん」ある
24時間しかないのに、常用されている標準時はUTC−11:00からUTC+14:00まで、幅にして25時間ぶんあります。日付変更線の近くで、国が「線のどちら側で暮らすか」を選んでいるためです。キリバスは1995年に東側の島々をUTC+14へ移し、国全体で同じ営業日を共有できるようにしました。おかげでUTC+14は地球上でいちばん早く新年を迎える場所になっています。
時差の表は、地球の自転の表ではなく、国境と暮らしの表です。
日本の中の「時差」
日本国内は一つの標準時ですが、太陽の南中時刻は場所ごとに違います。換算表を使えば、その差は計算できます。
| 地点 | 経度 | 東経135度との差 | 南中時刻のずれ |
|---|---|---|---|
| 与那国島 西崎 | 東経122度56分 | 西へ約12.07度 | 約48分遅い |
| 東京駅 | 東経139度46分 | 東へ約4.77度 | 約19分早い |
| 南鳥島 | 東経153度59分 | 東へ約18.98度 | 約76分早い |
与那国島と南鳥島のあいだでは、南中時刻が約2時間4分違います。時計は同じ時刻を指していても、太陽の位置は2時間ぶんずれている——一つの標準時で国を運用するというのは、そういうことです。
(実際の南中時刻には、地球の公転軌道と地軸の傾きによる「均時差」も±約15分ぶん加わります。ここで出しているのは経度ぶんの差だけです。)
測地から見ると、経度と時刻は同じものだった
経度と時間がきれいに換算できるのは偶然ではありません。かつては、時計のずれから経度を求めていたからです。出港地の時刻を保った時計を船に積み、現地の南中時刻と比べれば、その差から経度が出ます。
いまは逆になりました。GNSSは衛星の原子時計が刻む時刻から距離を出し、そこから位置(経度を含む)を決めています。時刻から経度を出すという原理は変わっておらず、時計が船室から宇宙へ移っただけ、という見方もできます。
自分の立っている場所の経度を確かめたいときは、GeoPrism JP の地図で座標を表示できます。手元の経度を4倍すれば、太陽の南中が時計の正午から何分ずれるかが分かります。
出典
- ネパール標準時(Nepal Standard Time)— 各国標準時の一覧として: https://www.timeanddate.com/time/zone/nepal
- 日本標準時 — 情報通信研究機構(NICT): https://jjy.nict.go.jp/
- 協定世界時(UTC)とうるう秒 — 情報通信研究機構(NICT): https://jjy.nict.go.jp/QandA/
- 明石市立天文科学館(東経135度子午線): https://www.am12.jp/
- 経緯度の基準 — 国土地理院: https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/sokuchikijun40003.html
本記事で計算した値
| 値 | 根拠 |
|---|---|
| 東経82度30分 → 5時間30分 | 82.5度 × 4分/度 = 330分 |
| 東経86度15分 → 5時間45分 | 86.25度 × 4分/度 = 345分 |
| 東京駅の南中は約19分早い | (139.767 − 135)度 × 4分/度 ≒ 19.1分 |
| 与那国島〜南鳥島で約2時間4分 | (153.981 − 122.934)度 × 4分/度 ≒ 124分 |
次に確認する
- 日本標準時はなぜ東経135度なのか — 「国土の中央付近」と「15の倍数」を両立させた線が明石だった経緯が分かります
- 日付変更線はなぜまっすぐではないのか — 本記事で触れたUTC+14が生まれる仕組み、線が島を避けて曲がる理由が読めます
- 経度0度はなぜグリニッジなのか — 換算の起点そのものが、いまは天文台から約102m東へ動いている話です
- 日時計と時計が合わないのはなぜか(均時差) — 本記事で除外した±15分ぶんの正体です
- 経度をクロノメーターで測っていた時代(GeoPrism JP) — 時刻差から経度を出していた原理を、もう少し詳しく追えます
- 度分秒と10進度はどう直すのか(GeoConverter Pro) — 「東経86度15分」を86.25度に直す手順そのものです
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第1章「緯度と経度のきほん」(Kindle Unlimited対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・公開プロジェクトの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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