
三角測量とは — 基線1本と角度だけで全国の座標を決めた方法と、GNSSで変わったこと
三角測量とは、距離は基線1本だけを精密に測り、あとは角度で三角形をつないで座標を広げていく方法です。長い距離を正確に測るのが難しかった時代の発明で、日本の一等三角測量は1883年(明治16年)に始まりました。ただし網でつなぐ以上、誤差が積み上がり、場所ごとのひずみが残ります。これが、旧日本測地系のズレが全国一律ではない理由のひとつです。GNSS はこの構造そのものを変えました。
GeoPrism JP(GPRM)の「見て・学ぶ」の一環として、三角測量 → 三辺測量 → 衛星測位の順に、日本の座標がどう決められてきたかを図で整理します。

1. 三角測量 — 距離は1本だけ測る
GNSS 以前、広い範囲の座標を決める主役は三角測量でした。原理はこうです。
- まず、平らで見通しの良い場所に基線を1本とり、その長さを極めて精密に測る
- 基線の両端から遠くの目標(山頂の櫓など)を見て、角度を測る
- 三角形の一辺(基線)と両端の角が分かれば、残りの辺の長さが計算で出る
- こうして求めた辺を、次の三角形の基線として使う
- 三角形を次々につなげて、国土全体を覆う網にする
なぜ距離を全部測らなかったのかというと、当時は長い距離を正確に測るのが極端に難しく、角度を測るほうがはるかに簡単だったからです。距離の測定を1回に減らし、あとは角度で広げていく——これが三角測量の発明です。
日本の一等三角測量は 1883年(明治16年)に始まりました。およそ250km間隔で基線を設け、その間を三角形の連なり(三角鎖)でつないで全国の骨格をつくっています。山頂に石標が置かれているのは、遠くまで見通す必要があったからです。三角点の種類と役割は水準点・三角点・電子基準点はどう違う?にまとめてあります。
江戸期の伊能忠敬の測量も、距離を歩測・間縄で測り、方位を測って積み上げる方式でした。「つないでいく」という発想は共通しています(伊能忠敬の地図はなぜ正確だったか)。
2. 「網でつなぐ」ことの宿命 — ひずみが残る
三角測量は非常によくできた方法ですが、構造的な弱点があります。誤差が積み上がることです。
三角形をつないで座標を広げていく以上、ある点の座標は「隣の点の座標+観測値」で決まります。隣の点にわずかな誤差があれば、それは次の点へ、さらに次の点へと伝わっていきます。網全体を調整計算でならすとしても、原点から遠いほど、また網の形が悪いところほど、ひずみが残ります。
これが、旧日本測地系のズレが全国一律ではない理由のひとつです。
日本測地系から世界測地系への移行では、東京付近でおよそ南東方向に400m台のズレがありました。ところが、この「ズレ」は全国どこでも同じ向き・同じ量ではありません。地域ごとに少しずつ違います。原因は二つあります。
| 原因 | 内容 |
|---|---|
| 座標系の定義の違い | 使う楕円体と、その置き方が違う。これは全国的に大きなズレを生む |
| 旧測地網のひずみ | 三角測量で積み上げた網に残った、場所ごとの食い違い |
前者だけなら、平行移動や回転といった少数のパラメータで表せます。後者があるから表せない——これが、旧日本測地系から世界測地系への変換に、パラメータ方式ではなく格子(グリッド)方式が使われる理由です(変換パラメータとグリッドの違い)。
GeoPrism JP のズレマップは、この「場所ごとに違うズレ」をベクトルとして地図に描く機能です。倍率を上げていくと、向きと大きさが地域ごとに少しずつ違う様子が見えます。
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3. 三辺測量 — 距離が測れるようになった
20世紀半ば、光波測距儀が実用化されて状況が変わります。光を往復させて時間を測ることで、長い距離を高い精度で直接測れるようになりました。
すると「角度で広げる」必要が薄れます。三角形の辺の長さを測ってつないでいく三辺測量が可能になり、角度と距離を組み合わせた測り方が主流になっていきます。現在のトータルステーション(角度と距離を同時に測れる測量機)は、この延長線上にある機械です。
ただし、「つないで広げる」という構造自体は変わっていません。基準となる点があり、そこから見通しをつないで座標を運ぶ。誤差が伝わる仕組みも残ったままです。
4. 衛星測位 — 一点ずつ、直接決まる
本当の断絶は、VLBI と GNSSが来たときに起きました。
- VLBI(超長基線電波干渉法)は、遠方の天体からの電波を複数の観測局で受け、到達時刻の差から局間の距離を求めます。見通しが要らないので、大陸をまたぐ距離も測れます
- GNSS は、上空の衛星からの信号で受信機の位置を直接求めます(GNSS測位のしくみを見て学ぶ)
決定的なのは、隣の点を経由しなくてよくなったことです。ある地点の座標が、隣の三角点の座標に依存しない。ひずみが積み上がる構造そのものが消えます。
日本では全国に電子基準点が配置され、GEONET として連続観測されています。これによって、座標は「一度決めて据え置くもの」から、常時観測して更新されるものに変わりました。
| 時代 | 測るもの | 座標の決まり方 | 弱点 |
|---|---|---|---|
| 三角測量 | 角度(+基線1本) | 三角形の網でつないで広げる | 誤差が積み上がる/ひずみが残る |
| 三辺測量 | 距離+角度 | 見通しをつないで運ぶ | つなぐ構造は同じ |
| 衛星測位 | 衛星までの距離 | 一点ずつ直接決まる | 上空視界が要る |
もっとも、衛星測位にも弱点はあります。空が見えないと測れないことです。だから現場では今もトータルステーションが現役で、GNSS と併用されています。
5. だから測地成果は更新される
一点ずつ直接測れて、しかも連続観測しているということは、地面が動けばそれが見えてしまうということでもあります。
日本列島はプレート境界にあり、常に動いています(プレート運動と地殻変動を見て学ぶ)。大きな地震があれば一気に動きます。三角測量の時代なら「数十年に一度、網を測り直す」で済んでいたものが、いまは動きが見えているのに座標だけ固定しておくわけにいかない状態になりました。
そこで導入されたのが、次の考え方です。
- 元期と今期を分ける — 座標の基準時点を決め、観測時点との差を補正で埋める(「元期」と「今期」)
- セミダイナミック補正 — 定常的な地殻変動の分を毎年のパラメータで補正する(セミダイナミック補正を見て学ぶ)
- 測地成果の更新 — 大きな変動があれば成果そのものを改定する(測地成果2000 → 2011 → 2024)
「座標がころころ変わって面倒だ」と感じるかもしれませんが、これは測る技術が地面の動きを見えるところまで来た結果です。三角測量の時代は、動いていないのではなく、動きが見えていなかっただけでした。

まとめ
- 三角測量は、基線1本を精密に測り、あとは角度で三角形をつないで広げる方法。日本の一等三角測量は1883年(明治16年)に始まった
- 網でつなぐ以上、誤差は積み上がり、場所ごとのひずみが残る
- 旧日本測地系と世界測地系のズレが一様でないのは、定義の違いに加えてこの網のひずみが乗っているから。だから変換にはグリッド方式が要る
- 光波測距儀で距離が測れるようになり三辺測量へ。ただし「つないで運ぶ」構造は変わらなかった
- VLBI・GNSS で、座標は隣の点を経由せず一点ずつ直接決まるようになった
- 直接測れて連続観測できるようになった結果、地面の動きが見えてしまい、元期・今期やセミダイナミック補正、成果の改定という考え方が必要になった
出典
- 国土地理院「日本の測地系」 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/datum-main.html
- 国土地理院「世界測地系移行に関する質問集(Q&A)」 https://www.gsi.go.jp/LAW/G2000-g2000faq-2.htm
- 国土地理院「測量の基準点」 https://www.gsi.go.jp/kizyunten.html
- 国土地理院「電子基準点とGEONET」 https://www.gsi.go.jp/kanshi/index.html
- 国土地理院「基準点成果の取扱い」 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/seika_toriathukai.html
年代・距離・ズレ量は公表資料にもとづく概略値です。地域ごとの実際のズレ量は場所によって異なります。正確な数値は国土地理院の一次情報でご確認ください。
次に確認する
- 4択クイズで確認する:三角測量の出発点「基線」は何メートル? — 相模野基線の実測値と、そこから全国へ広げた手順を2問で確認できます
- 三角測量の網に残ったひずみを、地図上のベクトルで実際に見てみる — ズレの向きと大きさが地域ごとに違う様子が確認できます
- ひずみがあるとなぜ格子(グリッド)で変換する必要があるのかを確認する — 平行移動や回転では表しきれない理由の続きです
- 三角測量より前の時代、伊能忠敬がどう測ったのかを確認する — 伊能図を現代の座標に重ねるとどれだけズレるかも見られます
- 三角点で決めた座標を、いま図面に使うときの変換手順を確認する(GeoConverter Pro) — 旧測地系の図面を今の座標に直す実務です
- 「空が見えないと測れない」というGNSSの弱点に、現場がどう対処しているか確認する(GeoDiveExa) — トータルステーションで見通しをつなぐ、三角測量時代と同じ発想の手当てです
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第3章「富士山と伊能忠敬」(Kindle Unlimited対応)
入門から通しで読むなら: 『日本の測地系がわかる本』 — 旧日本測地系から JGD2024 まで、座標がズレる理由と実務での扱いを1冊にまとめました(Kindle Unlimited 対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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