
離島の標高基準 — 東京湾平均海面が使えない島はどうする
前回の記事では、沖ノ鳥島・南鳥島という無人の離島の緯度経度がどう測られているかを取り上げました。今回は視点を変えて、離島の標高の基準について見ていきます。「海抜」と「標高」は同じかで触れたとおり、日本の標高は東京湾平均海面(T.P.)を基準にしていますが、実はすべての離島がこの基準をそのまま使えるわけではありません。
標高の基準は「水準測量でつながっていること」が前提
日本水準原点(東京都千代田区、標高24.3900m)から全国の水準点へ標高を伝えるしくみは、水準点を1つずつ経由して高さを積み上げていく水準測量が土台になっています。逆に言えば、水準測量で本土と物理的につながっていない場所には、東京湾平均海面を基準にした標高をそのまま持ち込めません。海を隔てた離島の多くが、この「つながっていない」場所にあたります。
離島は「その島ごとの平均海面」が基準
国土地理院は、測量法第11条第1項に基づき、離島など特別な事情がある場合にはその島独自の基準点・基準海面を定めることを認めています。実際に、令和7年4月時点で次のような離島が、それぞれ独自の平均海面を基準にしています(一部抜粋)。
| 都道府県 | 島名 | 基準海面 |
|---|---|---|
| 東京都 | 父島 | 二見港平均海面 |
| 東京都 | 母島 | 沖港平均海面 |
| 東京都 | 南鳥島 | 南鳥島平均海面 |
| 沖縄県 | 沖縄島 | 中城湾平均海面 |
| 沖縄県 | 石垣島 | 石垣港平均海面 |
| 沖縄県 | 与那国島 | 久部良港平均海面 |
| 鹿児島県 | 奄美大島 | 名瀬港平均海面 |
前回取り上げた南鳥島も、緯度経度は電子基準点による連続観測で管理されている一方、標高は「南鳥島平均海面」という、その島固有の基準で表されています。沖縄本島でさえ東京湾平均海面ではなく「中城湾平均海面」が基準になっている点は、意外と知られていないかもしれません。
各島の基準点には、二等水準点・電子基準点付属標・一等三角点など、その島にある観測点が割り当てられており、島ごとに験潮場(潮位観測施設)で測った平均潮位から基準面が決められています。
なぜ「平均海面」は場所によって高さが違うのか
「海面はどこでも同じ高さ」というイメージを持ちがちですが、実際の平均海面は海流・水温・塩分濃度・気圧などの影響を受けて、場所ごとにわずかな高低差(海面の傾き)があります。東京湾平均海面と各離島の平均海面も、厳密には同じ高さではありません。だからこそ、本土から遠く離れた島では「本土の基準をそのまま延長する」のではなく、「その場所で実際に観測した平均海面」を基準にする方が、局所的には整合性の取れた標高になります。
GNSSで測る場合は「基準面補正量」が必要
現在では、これらの離島でもGNSS(衛星測位)を使って標高を求める場面が増えています。ただし国土地理院は、独自の基準海面を持つ離島でGNSS測位から標高を求める際には基準面補正量を考慮する必要があると案内しています。これは、GNSSが出す楕円体高から全国共通のジオイドモデルで標高を求めると、その島固有の基準海面との間にわずかなズレが生じるためです。
楕円体高・標高・ジオイド高の関係で紹介した「楕円体高=標高+ジオイド高」という基本式は全国共通ですが、離島ではそこに島固有の基準面補正量を足し合わせる、もう一段階の調整が必要になる、というのがポイントです。RTK-GNSSで離島の現場測量を行う際も、この補正量を踏まえないと、正標高が本来の基準からズレたまま扱われてしまう可能性があります。
まとめ
- 標高の基準(東京湾平均海面)は水準測量で本土とつながっていることが前提で、離島の多くはこの網に含まれていない
- 測量法第11条に基づき、離島は験潮場で観測したその島固有の平均海面を基準点として使っている(例:父島=二見港平均海面、沖縄島=中城湾平均海面、南鳥島=南鳥島平均海面)
- 平均海面は場所によってわずかに高さが異なるため、離島は本土の基準をそのまま延長せず、局所的な観測値を基準にしている
- 離島でGNSS測位から標高を求める場合は、全国共通のジオイドモデルに加えて「基準面補正量」の考慮が必要

出典
- 離島の高さ | 国土地理院 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/ritohyokogenten.html(最終更新:2025年4月1日)
- 平均海面 | 国土地理院 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/suijun-kijun.html
- 験潮の概要 | 国土地理院 https://www.gsi.go.jp/kanshi/tide_presen.html
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