北極点は動いている? — 自転軸が半径10mで揺れる極運動と、2015年から消えたチャンドラーウォブル

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北極点は動いている? — 自転軸が半径10mで揺れる極運動と、2015年から消えたチャンドラーウォブル

北極点は動いている? — 自転軸が半径10mで揺れる極運動と、2015年から消えたチャンドラーウォブル

動いています。 地球の自転軸が地面を貫く点——つまり本当の北極点は、最大振幅で半径約10mの範囲をぐるぐると回り続けています。これを極運動と呼びます。しかも2024年、この動きの主役だった「チャンドラーウォブル」が2015年以降ぱたりと止まっていたことが発見されました。観測が始まった19世紀末以来、初めてのことです。


極運動とは何か

国立天文台暦計算室の定義はこうです。地球の自転軸が、地球の形(地殻)に対して動きまわる運動を極運動といいます。

言い換えると、地面に「ここが北極」と杭を打っても、自転軸のほうが少しずつ動いてしまう、ということです。杭から見れば自転軸が動き、自転軸から見れば地面が動く。どちらから見ても同じ現象です。

なお、月や太陽の潮汐力による歳差・章動は極運動には含めません。あれは自転軸が「宇宙に対して」向きを変える動きで、極運動は自転軸が「地球に対して」動く成分です。1日より長い時間スケールのものを極運動と呼びます。

動きの正体は2つの周期の重ね合わせ

極の動きはランダムではありません。北大の解説によれば、極付近の固定点から観測すると、1年周期と1.2年周期の東回りの動きが重なり合った二次元運動になります。

成分 周期 正体
年周ウォブル 1年 地表の流体(大気・海洋・陸水)の季節変動による強制振動
チャンドラーウォブル 約1.2年(433日ほど) 地球そのものの固有振動(自由振動)

周期がわずかに違う2つの波を重ねると「うなり」が生まれます。1年と1.2年の場合、そのうなりの周期は約6年。極の軌跡は、6年かけて大きく振れたり小さく縮んだりを繰り返す渦巻きになります。最大振幅で半径約10mというのが、この重ね合わせの結果です。

スケール感をつかむための換算を1つ。0.1秒角が地表の約3メートルにあたります。極運動は角度の秒(”)で表される、非常に小さな角度の話です。

オイラーの305日と、チャンドラーの433日

面白いのはチャンドラーウォブルの歴史です。

1700年代、オイラーは理論的に305日周期の極運動を予言していました。ところが実際に観測されたのは違いました。1891年、アメリカの天文学者 S. C. チャンドラーが約433日の周期を発見します。

なぜ理論と1.4倍もずれたのか。オイラーの305日は、地球全体がまったく変形しない「剛体」だと仮定した場合の値だったからです。実際の地球は変形します。1.2年という固有周期は、地球の扁平率、弾性、流体核とマントルの結合度といった、地球の中身の性質を反映して決まっていると考えられています。

つまり極の揺れ方は、地球の内部構造を外から探る手がかりでもあるわけです。

どうやって測るのか

測り方は時代とともに変わってきました。

時期 手法
19世紀末〜1970年代 光学的な天文観測(星の位置から緯度を精密に測る)
1970年代〜 VLBI(超長基線電波干渉法)、SLR(衛星レーザー測距)
1990年代〜 GNSS(全球衛星測位システム)、DORIS

現在は毎日の極の位置が宇宙測地技術によって求められています。世界中の観測を集約しているのが IERS(国際地球回転・基準系事業)です。

座標系との関係——EOPという5つの数

ここが測地の本題です。極運動の大きさ (x, y) は理論的に予測できません。だから観測し続けて、実測値を公表するしかない。

IERSはVLBI・LLR・SLR・GPS・DORISの観測データを集約し、地球姿勢パラメータ(EOP: Earth Orientation Parameter)として発表しています。EOPは次の5つです。

# パラメータ 意味
1〜2 歳差・章動の補正量 (dψ, dε) または (dX, dY) 自転軸の宇宙に対する向きのずれ
3 UT1 − UTC(または UT1 − TAI) 自転の速さのずれ(ここから1日の長さLODが出る)
4〜5 極運動パラメータ (x, y) 極が形状軸からどれだけずれているか

ITRF(国際地球基準座標系)のイメージ

GNSS衛星の軌道は、宇宙に固定された座標系(天球座標系)の中で決まります。一方、私たちが欲しい緯度経度は、地球に固定された座標系(ITRF)の値です。この2つを結ぶ回転の中に、極運動パラメータが入っています。

では、私たちの緯度は毎日10m動くのか

動きません。ここは誤解しやすいところです。

ITRFのような地球基準座標系では、極の位置は「約束で決めた極」(IERS基準極)に固定されています。実際の自転軸はその周りを揺れていますが、そのズレはEOPとして別枠で扱われ、座標のほうは動かしません。

だから、GNSS測位や測量成果に極運動が「誤差」として現れることはありません。すでに補正された後の世界に、私たちは住んでいます。極運動は、その補正を成り立たせるために誰かが毎日測り続けている量、という位置づけです。

(人工衛星の軌道決定や予測のためにも、極の位置は精密に観測し続ける必要があります。)

そして2015年、チャンドラーウォブルが消えた

2024年1月、北海道大学の古屋正人教授と山口竜史氏が、チャンドラーウォブルが2015年以降に消失していたことを発見したと発表しました。観測史上初めてのことです。

チャンドラーウォブルは地球の固有振動なので、何かに揺すられ続けないと減衰して消えてしまいます。2000年代初めには、その揺すり手(励起源)は大気と海洋の全球的な変動だと認識されるようになっていました。

研究では、気象庁の全球大気再解析データ(JRA-55)とヨーロッパ中期気象予測センター(ECMWF)の独立なデータの両方から大気の寄与を推定したところ、どちらも2015年以降に小さくなっていることが分かりました。偶然打ち消しあったのではなく、大気側の何かが変わったことを示しています。なぜそうなったのかは、今後の研究待ちです。

副産物として、地球内部についての知見も出ました。減衰の速さを表す Q値は、これまで100程度と考えられていましたが、今回の観測は100以下であることを示しています。地震波から推定される下部マントルのQ値は200〜300程度なので、下部マントルは弾性体からのズレが思ったより大きいということになります。

自転軸の揺れが止まったことから、地球の奥深くの性質が見えてくる——極運動を測り続ける意味が、よく分かる話だと思います。

まとめ

  • 北極点(自転軸が地面を貫く点)は動いており、この動きを極運動という
  • 1年周期の年周ウォブルと約1.2年周期のチャンドラーウォブルが重なり、約6年のうなりを伴って最大振幅で半径約10mを動く
  • 0.1秒角が地表の約3メートル。角度としてはごく小さい
  • オイラーの理論値305日に対し、実際は約433日。地球が変形するからずれる
  • 極運動の大きさは予測できないため、IERSが観測を集約し地球姿勢パラメータ(EOP)の一部として公表する
  • ITRFの極は約束で固定されているので、私たちの緯度経度が極運動で毎日動くわけではない
  • 2024年、チャンドラーウォブルが2015年以降に消失していたことが発見された(北海道大学)

出典

  • 暦Wiki/極運動 | 国立天文台暦計算室 https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/B6CBB1BFC6B0.html
  • 暦Wiki/地球姿勢パラメータ | 国立天文台暦計算室 https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/C3CFB5E5BBD1C0AAA5D1A5E9A5E1A1BCA5BF.html
  • チャンドラーウォブルの消失発見と原因解明へ(北海道大学プレスリリース・2024年1月10日、古屋正人教授・山口竜史氏) https://www.hokudai.ac.jp/news/2024/01/post-1373.html
  • Yamaguchi, R. & Furuya, M., “Can we explain the post-2015 absence of the Chandler wobble?”, Earth, Planets and Space(2024年1月2日オンライン公開) https://doi.org/10.1186/s40623-023-01944-y
  • IERS Earth Orientation Centre https://hpiers.obspm.fr/eop-pc/

「2015年以降の消失」は2024年1月発表時点の知見です(本記事は2026年9月時点でまとめました)。その後の観測でチャンドラーウォブルが再び励起されている可能性があるため、最新の状況はIERSの公表データをご確認ください。


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