
【クイズ解説㉖】北極星の高さを測れば、その場所の緯度が分かる? — 天文緯度と測地緯度のちがいを確認する
答えは「おおよそ分かるが、2か所ずれる」です。 緯度に等しいのは北極星の高度ではなく天の北極の高度。そして星で測れるのは重力を基準にした天文緯度で、地図に書いてある測地緯度とは別物です。2問で確かめます。
第1問:北極星の高度を測ると、緯度とどれくらい違う?
北緯35度の地点で、北極星の高度を正確に35.0度と測りました。この場所の緯度は、どれくらいの確かさで分かったことになるでしょう。
- 測った角度がそのまま緯度。ずれは生じない
- 最大で数十メートルぶんずれる
- 最大で70km台ぶんずれる
- 最大で数百kmぶんずれる
正解:3(最大で70km台)
なぜそうなるのか
緯度に等しいのは、天の北極(地球の自転軸を空まで延ばした点)の高度です。そして——
天の北極という点に、星は置かれていません。
北極星(こぐま座α星ポラリス)は、天の北極から 約40分(約0.7度) 離れたところにあります。そのため北極星は1日かけて天の北極のまわりに小さな円を描き、高度は一晩のうちに上がったり下がったりします。
この40分を地上の距離に直すと、こうなります。
40分 = 0.667度
緯度1度 ≒ 111km
0.667 × 111 ≒ 74km
補正なしでは最大70km台の見当違い。 選択肢2の「数十メートル」は第2問で出てくる鉛直線偏差の桁で、こちらはもっと大きな話です。
実際の天文航法では、北極星の高度を測ったあと、観測した時刻から「いま天の北極のどちら側にいるか」を割り出して差し引きます。時刻が要るという点で、経度の測り方と地続きです。
補足:今の北極星は「たまたま」
地球の自転軸は約26000年の周期で首を振っており(歳差)、天の北極も空の上を移動しています。約12000年後には、こと座のベガが北極星の座に近づきます。ポラリスが北極星なのは、いまの時代だからにすぎません。
また、この方法は南半球では使えません。天の南極の近くに、北極星に相当する明るい星がないためです。
第2問:星で測った緯度は、地図の緯度と一致する?
第1問の補正を完璧に行い、天の北極の高度を誤差なく求めたとします。その値は、地図やGNSSが表示する緯度と一致するでしょうか。
- 一致する。緯度は緯度なので基準は一つしかない
- 一致しない。星が測っているのは天文緯度で、地図の測地緯度とは基準が違う
- 一致しない。星は地心緯度を測っているから
- 一致しないが、原因は大気による光の屈折だけ
正解:2(天文緯度と測地緯度は基準が違う)
なぜそうなるのか
高度を測るには、基準となる「水平」が要ります。水準器でも、おもりを下げた糸でも、使っているのは重力の向きです。
ところが重力の向きは、どこでも基準楕円体の法線と一致しているわけではありません。近くに山があればそちらへわずかに引かれ、地下の岩石が重ければそちらへ傾く。この食い違いを鉛直線偏差と呼びます。
つまり「緯度」は一種類ではありません。
| 名前 | 何を基準にした角度か | 誰が使うか |
|---|---|---|
| 天文緯度 | 鉛直線(重力の向き) | 星で測った緯度 |
| 測地緯度 | 基準楕円体の法線 | 地図・GNSS・座標データ |
| 地心緯度 | 地球の中心から引いた直線 | 衛星軌道などの計算 |

選択肢3が間違いなのは、地心緯度は楕円体の形から来る別のずれだからです(同じ点でも、測地緯度とは十数分ほど違います)。星が測っているのは重力基準の天文緯度のほうです。
選択肢4の大気差(光の屈折)は実在し、実際の観測では必ず補正します。ただしそれは観測の補正であって、天文緯度と測地緯度が別物であることの説明にはなりません。基準そのものが違うずれは、どれだけ丁寧に観測しても消えません。
1秒のずれは約31m
鉛直線偏差の大きさを実感するために、換算しておきます。
緯度1度 ≒ 111km
1度 = 3600秒
111km ÷ 3600 ≒ 31m
緯度で1秒ずれると、地上では約31m。 天文観測の精度が秒のオーダーである以上、この差は無視できません。
最もよく知られた例が、経度側のグリニッジです。エアリー子午環の位置では鉛直線偏差の東西成分が約5.3秒あり、その結果として現在の経度0度は天文台の約102m東を通っています。緯度でも、原理はまったく同じことが起きています。
2問のまとめ
| 問 | ずれの正体 | 大きさの目安 |
|---|---|---|
| 第1問 | 北極星は天の北極そのものではない | 約40分=約74km |
| 第2問 | 星は天文緯度、地図は測地緯度 | 1秒=約31m |
第1問は観測すれば消せるずれ、第2問は基準の違いなので消えないずれ。 江戸時代の「北極出地度数」や伊能忠敬の測量が、現代の座標とぴったり重ならない理由の一端はここにあります。
GeoPrism JP では、緯度・経度と楕円体の関係を図で動かしながら確かめられます。
https://apps.apple.com/app/id6780149823
次に確認する
- 北極星の高さが緯度とずれる2つの理由の詳しい解説に戻る — 本クイズのもとになった解説記事です。天の北極の高度=緯度になる理屈と、歳差の話もこちらにあります
- 「緯度」は一種類じゃない — 測地緯度と地心緯度の違いを図で確認する — 第2問の表にある3種類のうち、楕円体の形から来るほうのずれが図で分かります
- 本初子午線が天文台の約102m東を通っている理由を確認する — 同じ鉛直線偏差が、経度側で実際に何メートルになったかの実例です
- 伊能忠敬の地図はなぜ正確だったのかを確認する — 「北極出地度数」を各地で測り歩いた測量が、現代座標とどう重なるかが分かります
- 日本経緯度原点と日本水準原点 — 緯度経度と標高の出発点を確認する — 天文観測で決めた原点が、その後どう測地座標へ引き継がれたかが分かります
- GNSSで標高を出す測量が現場でどう扱われているか(GeoDiveExa) — 重力の向きを基準にした量(標高)と、楕円体基準の量を現場で突き合わせる側の話です
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第3章「富士山と伊能忠敬」(Kindle Unlimited対応)
入門から通しで読むなら: 『日本の測地系がわかる本』 — 旧日本測地系から JGD2024 まで、座標がズレる理由と実務での扱いを1冊にまとめました(Kindle Unlimited 対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・公開プロジェクトの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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