
1海里は何メートル? — 緯度1分の長さで決まった1852mと、赤道で1843m・極で1862mまで変わる理由
1海里は1852mです。
台風のニュースで「暴風域の半径150海里」、飛行機の窓の外に「あと80nm」。海と空でだけ使われる単位が、ときどき生活に入ってきます。では、なぜ1852という中途半端な数字なのでしょうか。
答えは 「緯度1分の長さだから」 です。ただし——その長さは、地球のどこで測るかによって20m近く変わります。 きれいに1852mになる場所は、実は限られています。
1852mの正体は「緯度1分」
海里のもとの定義は、地球上における緯度1分の弧の長さでした。
- 緯度1度 = 60分
- 赤道から北極まで = 緯度90度 = 5400分
- したがって 1海里 ≒ 赤道から極までの距離 ÷ 5400
なぜ便利かというと、海図の縦の目盛りが、そのまま距離のものさしになるからです。緯度が1分進めば1海里進んだ。定規もスケールバーも要らない。帆船の時代に、これは決定的でした。
そして毎時1海里の速さが1ノット。1ノット = 1852 m/h ≒ 0.5144 m/s です。
では、緯度1分は本当に1852mなのか
ここが本題です。地球は完全な球ではなく、極方向にわずかに潰れた楕円体です。楕円の「曲がり具合」は場所によって違うので、1分ぶんの弧の長さも緯度によって変わります。
GRS80 準拠楕円体(日本の測地成果が採用しているもの)で、緯度ごとに計算するとこうなります。
| 緯度 | 子午線上の1分の長さ |
|---|---|
| 0°(赤道) | 約 1842.9 m |
| 15° | 約 1844.1 m |
| 30° | 約 1847.5 m |
| 45° | 約 1852.2 m |
| 60° | 約 1856.9 m |
| 75° | 約 1860.3 m |
| 90°(極) | 約 1861.6 m |
赤道と極で 約19mの差。1852mちょうどになるのは、だいたい緯度45度あたりです。日本の本州(北緯35度前後)で測ると約1849m。「1海里」より3mほど短い。
潰れているのに、極のほうが1分が長いのはなぜか
表を見て引っかかるのは、たいていここだと思います。極方向に潰れているなら、極のほうが短くなりそうなのに、逆になっている。
角度の1分が切り取る弧の長さは、その場所の曲率半径で決まります。曲率半径は「その場所を円で近似したときの、その円の半径」です。急カーブなら小さく、ゆるいカーブなら大きい。
楕円を横に潰した形を思い浮かべてください。赤道のあたりは急なカーブ、極のあたりはゆるいカーブになっています。ゆるいカーブ=曲率半径が大きい=同じ1分でも長い弧を切り取る。
だから「潰れている極のほうが、1分あたりは長い」。形が潰れていることと、その場所の曲がり具合は別の話、というのがこの逆転の正体です。
歴史上の海里を、緯度で逆算してみる
海里の値は国によってバラバラでした。それぞれの数字を、GRS80の計算値と突き合わせると、どこを基準にしたのかが読めます。
| 呼び方 | 値 | GRS80で対応する場所 |
|---|---|---|
| (新)英海里 | 1853.184 m | 緯度48度の1分 = 約1853.2 m |
| 電信海里 | 1855.3176 m | 赤道の経度1分 = 約1855.3 m |
| 国際海里 | 1852 m | ベッセル楕円体の象限 ÷ 5400 = 約1852.01 m |
3つとも、計算値とほぼ小数第1位まで一致します。
- 英海里が緯度48度を採ったのは、イギリスの緯度帯だから
- 電信海里は子午線ではなく赤道の1分(東西方向)を採った
- 国際海里の1852mは、当時使われていたベッセル楕円体で赤道から極までを5400で割った値
3つ目は少し面白くて、いまの GRS80 で同じ計算をすると 約1852.22 m になります。つまり——もし現代の楕円体で決め直していたら、1海里は1852mではなく1852.22mだったということです。国際海里は1929年にモナコで開かれた臨時国際水路会議で「正確に1852m」と決められ、以後は楕円体と切り離された定義値になっています。

経度1分は「海里」ではない
もう1つ、混ざりやすいところ。
海里の基準は緯度1分(南北方向)です。経度1分(東西方向)ではありません。
経度の1分は、高緯度へ行くほど詰まっていきます。GRS80で計算すると、
| 緯度 | 経度1分の長さ |
|---|---|
| 0°(赤道) | 約 1855.3 m |
| 35°(日本の本州あたり) | 約 1521.5 m |
赤道では緯度1分(1842.9m)とほぼ同じ長さですが、日本では300m以上も短い。海図で距離を測るときに「横の目盛り(経度)」を使ってはいけないのは、これが理由です。縦の目盛り(緯度)だけが距離のものさしになります。
12海里と200海里
海里が現役でいちばん目に入るのは、たぶんこの2つです。
| 区分 | 海里 | メートル法で |
|---|---|---|
| 領海 | 12海里 | 約 22.2 km |
| 排他的経済水域(EEZ) | 200海里 | 約 370.4 km |
どちらも「1852m × 海里数」の単純な掛け算です。そしてこの起点となる線(基線)の位置を決めるのは測量なので、島がどこにあるかを何m単位で押さえておくことが、そのまま数十万km²の海域につながります。
日本の南端・東端がどう測られているかは、別の回で扱っています。
GeoPrism JP で確かめる
緯度1分の長さが場所によって変わる、という感覚は、地図上で緯度を動かしてみるといちばん早く入ります。GeoPrism JP の「学ぶ」タブは、緯度・経度から測地系・標高の基準までを図と地図で順に追える構成にしてあります。

https://apps.apple.com/app/id6780149823
まとめ
- 1海里 = 1852m。もとの定義は「緯度1分の弧の長さ」
- ただし緯度1分は緯度で変わる。GRS80で 赤道 約1842.9m 〜 極 約1861.6m、差は約19m。1852mになるのは緯度45度あたり
- 潰れている極のほうが1分が長いのは、極のカーブがゆるい(曲率半径が大きい)から
- 歴史上の各海里は、緯度48度・赤道の経度1分・ベッセル楕円体の象限と、それぞれ計算値がほぼ一致する
- いまのGRS80で決め直すと 約1852.22m。1852mは1929年に定義値として固定された数字
- 距離のものさしになるのは緯度の目盛りだけ。 経度1分は日本付近で約1521mしかない
本記事の緯度ごとの数値は、GRS80準拠楕円体(長半径6378137m、扁平率1/298.257222101)から計算した値です。実務で使う距離は、依拠する楕円体と計算式によって末尾が変わります。
出典
- 海里(定義・歴史上の各海里・国際海里の採択) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%B7%E9%87%8C
- GRS80(長半径・扁平率・子午線象限) https://ja.wikipedia.org/wiki/GRS80
- 海難審判所「海の知識 ○○海里って?」 https://www.mlit.go.jp/jmat/monoshiri/houki/houkinyumon/umichisiki.htm
- 経済産業省「表4 用途を限定する非SI単位」 https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun/techno_infra/11_images/4.pdf
次に確認する
- 緯度1度・経度1度が何メートルになるかを確認する — 本記事の「1分」を「1度」のスケールに広げた回です
- 地球一周が何キロで、メートルがどこから来たのかを確認する — 1852mと同じく「地球を割り算して作った単位」の話です
- 昔の船が時計で経度を測ったしくみを確認する — 緯度は測れて経度が測れなかった時代の航海術です
- 沖ノ鳥島・南鳥島の緯度経度がどう測られているかを確認する — 200海里の起点になる島の座標の話です
- NMEAの「3541.1234」という度分表記の読み方を確認する(GeoConverter Pro) — 「分」が実務のデータにそのまま出てくる場面です
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第2章「地球のかたちと『メートル』」(Kindle Unlimited対応)
入門から通しで読むなら: 『日本の測地系がわかる本』 — 旧日本測地系から JGD2024 まで、座標がズレる理由と実務での扱いを1冊にまとめました(Kindle Unlimited 対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
お願い
本記事の情報は参考目的で掲載しており、正確性・完全性を保証するものではありません。誤記・不正確な情報がございましたら、コメント欄よりご指摘いただければ、確認のうえ修正いたします。
コメントを残す