世界の測地系くらべ — NAD83・ETRS89・GDA2020と日本

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世界の測地系くらべ — NAD83・ETRS89・GDA2020と日本

世界の測地系くらべ — NAD83・ETRS89・GDA2020と日本

世界測地系ITRFとは何かという記事で、地球規模の「ものさし」の話をしました。今回はその応用編として、各国・各地域が実際に使っている測地系——アメリカのNAD83、ヨーロッパのETRS89、オーストラリアのGDA2020——を、日本のJGD2011・JGD2024と比べながら見ていきます。「なぜ国ごとに違う測地系が必要なのか」という疑問に対する、一つの答えがここにあります。


ITRFは動く「ものさし」

前回整理した通り、ITRF(国際地球基準座標系)は地球の重心を原点にした、常に更新され続ける動的な基準です。プレート運動によって大陸そのものが年に数cmずつ動いているため、ITRFで表した緯度経度は、同じ地点でも観測時期によって少しずつ値が変わります。

世界測地系ITRFの考え方を図解

これは全世界共通の基準として合理的な設計ですが、「ある年の地図に、その後の観測座標をそのまま重ねる」という日常的な用途には不便です。地図を作った後も座標が動き続けると、実務上の基準として扱いにくいためです。そこで各国・各地域は、ITRFをベースにしながらも「自分たちの大陸・プレートに対しては動かないように固定した」独自の測地系を作っています。

ETRS89 — ユーレシアプレートに固定

ヨーロッパで使われるETRS89(European Terrestrial Reference System 1989)は、1989年時点のITRSと一致させたうえで、ユーレシアプレートの安定部分に対して固定した測地系です。ユーレシアプレート自体は年間約2.5cm程度動いているため、ITRSとETRS89の差は年々広がり続け、2000年時点で両者の差は約25cmに達していたとされます。

つまりETRS89は「プレートに乗ったまま静止する基準」であり、ヨーロッパ域内で長期的に安定した座標を提供する代わりに、地球全体を表すITRFとは時間とともにズレが開いていく、という設計です。

NAD83 — 北米プレートに固定

アメリカ・カナダなどで使われるNAD83(North American Datum 1983)も、考え方はETRS89とよく似ています。北米プレートに対して固定された測地系で、プレート内では長期的に安定した座標を保てる一方、WGS84やITRFとは経年で差が生じます。GNSS測位で得られる生の座標(WGS84系)と、地図や不動産記録で使われるNAD83系の座標がぴったり一致しない理由の一つが、この「プレート固定」の考え方にあります。

GDA2020 — 経年変化パラメータを内蔵

オーストラリアのGDA2020(Geocentric Datum of Australia 2020)は、より新しい設計です。ITRF2014と整合する高精度な基準を採用しつつ、基準点の位置・速度に加えて、大地震による地殻変動(余効変動)や年周・半年周のパラメータモデルまで内蔵しているとされます。オーストラリア大陸はユーラシアプレートなどと比べても速いスピードで移動しているため、こうした経年変化への対応がより重要になっている背景があります。

日本のJGD2011・JGD2024との共通点・相違点

ここまでの3つと、日本のJGD2011・JGD2024を並べてみると、共通する設計思想が見えてきます。

測地系 対象地域 プレート固定の考え方 地震・変動への対応
ETRS89 欧州 ユーレシアプレートに固定 主に長期的なプレート運動を無視する設計
NAD83 北米 北米プレートに固定 同上
GDA2020 豪州 オーストラリアプレートに固定 経年変化パラメータを内蔵
JGD2011 日本 概ね固定(2011年基準) セミダイナミック補正で地殻変動を都度補正

日本が他地域と大きく違うのは、単一のプレートに乗っているわけではなく、複数のプレート境界に位置し、かつ地震による短期的な地殻変動が頻繁に発生する点です。そのため「基準を固定してプレート運動を無視する」だけでは足りず、セミダイナミック補正という「測量のたびに現在の地殻変動量を補正する」しくみを組み合わせているのが、日本の測地系運用の特徴です。GDA2020が経年変化パラメータを内蔵する発想は、この日本のアプローチと近いところがあります。

測地系・基準点のまとめ図

なぜ「世界共通の1つの測地系」にしないのか

ここまで見てきたように、各国・地域が独自の測地系を維持しているのは、単なる歴史的な経緯だけでなく、「その地域の実務(地図・登記・測量)にとって扱いやすい、安定した基準が必要」という合理的な理由があります。ITRFという世界共通の動的な基準と、各国のローカルな固定基準を、必要に応じて変換しながら使い分ける——というのが、現代の測地系運用の基本的な構図です。GeoPrism JPが可視化しているJGD2011↔JGD2024のズレも、この「世界共通の動的基準とローカルな固定基準の関係」の日本版だと捉えると、理解しやすくなります。


学びのポイント

  • ITRFは地球全体で動的に更新される基準で、プレート運動により同じ地点でも座標が経年変化する。
  • ETRS89(欧州)・NAD83(北米)は、それぞれの大陸プレートに固定することで長期的に安定した座標を提供する設計。
  • GDA2020(豪州)はプレート固定に加え、経年変化・地震変動のパラメータを内蔵するより新しい設計。
  • 日本のJGD2011・JGD2024は、プレート境界に位置し地震が多いという事情から、セミダイナミック補正で地殻変動を都度補正する独自の運用をしている。
  • 「世界共通の1つの測地系」ではなく、ITRFとローカル固定基準を使い分ける構図は世界共通。

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※GeoConverterPro(GCVP)でも同日、測地線距離の計算式(ヒュベニ・Vincenty・Karney)を比較する記事を公開予定です。公開後、URLが確定次第こちらにもリンクを追加します。

出典(参考):
European Terrestrial Reference System 1989 — Wikipedia
GDA2020 (Geocentric Datum of Australia 2020) — GISBox
WGS84 vs. NAD83 vs. ITRF 2014: What are the differences? — Point One Navigation

※本記事のプレート移動量・経年差などの数値は、各国公式資料・紹介記事に基づく一般的な目安であり、最新の公式測定値とは異なる場合があります。正確な数値は各国の測地当局の公式資料をご確認ください。


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