海面が上がると標高の数字は変わる? — 年3.5mmの海面上昇と、東京湾平均海面が動かない理由

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海面が上がると標高の数字は変わる? — 年3.5mmの海面上昇と、東京湾平均海面が動かない理由

海面が上がると標高の数字は変わる? — 年3.5mmの海面上昇と、東京湾平均海面が動かない理由

答えは変わりません。日本の標高のゼロは「いまの海面」ではなく、明治時代に決めた東京湾平均海面を、陸の上の日本水準原点(標高24.3900m)に焼き直した固定の面だからです。海が上がっても標高の数字は自動では動きません。動くのは、人が基準を決め直したときだけです。


標高のゼロは「いまの海面」ではない

地形図や測量で使う標高は、東京湾平均海面(T.P.) を高さゼロとした値です。ただし平均海面そのものに杭は打てません。そこで明治期に隅田川河口・霊岸島で観測した潮位の平均値を、陸上の固定点へ引き継ぎました。それが東京都千代田区の日本水準原点で、標高は 24.3900m と決められています。

楕円体高・標高・ジオイド高の関係を示す断面図

つまり日本の標高は、

海面 →(明治期の観測で)→ 日本水準原点 24.3900m →(水準測量で)→ 全国の水準点

という順に伝わっています。起点がすでに陸の上の点に移っているので、海の水位が今日上がっても、水準点の標高が翌日変わることはありません。

使うことば 何を指すか 海が上がると
標高(T.P.基準) 固定された基準面からの高さ 変わらない
実際の海面の高さ 今この瞬間の水位 上がる
潮位(満潮・干潮) 1日のうちの上下動 毎日上下する

「海抜」は自治体や場面によって最寄りの平均海面を基準にすることがあり、標高と一致しないことがあります。この違いは海抜と標高の違いとはにまとめています。


実際の海面はどれくらい上がっているのか

気象庁は全国の験潮所(検潮所)のデータから、日本沿岸の海面水位の長期変化を公表しています。2004〜2025年の上昇率は年 3.5mm(信頼区間 2.8〜4.2mm/GNSS併設13地点・地盤の上下変動を補正した値。2026年2月更新時点)です。

ここで押さえておきたいのが、地盤変動の補正です。験潮所の記録はあくまで「その場所の陸と海の高さの差」なので、

  • 海が上がった
  • 陸が沈んだ

のどちらでも、同じように「水位が上がった」と記録されます。両者を分けるには、験潮所そのものの上下をGNSSで測る必要があります。日本ではGNSS(電子基準点)を併設した験潮所の値を使って、この切り分けが行われています。測地の観測が無ければ、海面上昇という数字自体が出せないわけです。

年3.5mmを単純に100年へ伸ばせば約35cmですが、これはあくまで直近の傾向をそのまま延長した計算であって、将来予測ではありません。


「標高0m」と波打ち際は一致しない

基準面は固定、実際の海面は動く。この2つが別々なので、次のようなことが起きます。

場面 何が起きているか
標高0mの地点が水没していない 基準面は明治期の平均海面。いまの満潮面より低いとは限らない
標高0mより低い土地に人が住んでいる ゼロメートル地帯。地盤沈下で地面が基準面より下がった
同じ岸壁の高さが年によって違って見える 潮位・気圧・海水温で日々の水位が変わる
港湾図面の高さが地形図と違う 港湾はT.P.ではなくA.P.・O.P.など地域の基準を使うことがある

3つ目の潮の満ち引きは、場所によっては1日で数十cm〜数mに達します。地形図の標高とは別の話です。4つ目の地域ごとの高さゼロについては、GeoConverter Pro 側のT.P.・A.P.・O.P.・Y.P. — 図面ごとに違う「高さゼロ」をそろえるで実務の直し方を整理しています。


基準が変わるのは、人が決め直したときだけ

日本水準原点の値は、過去に2度改定されています。

時期 原点の標高 きっかけ
設置当初(1891年) 24.5000m 明治期の設定
関東大震災後(1923年) 24.4140m 地殻変動を受けた再測量
2011年10月21日〜 24.3900m 東北地方太平洋沖地震による地盤沈下

いずれも地震で陸が動いたからであって、海面が上がったからではありません。海面上昇を理由に標高の基準が改定されたことは、日本ではまだありません。

一方で、高さの決め方そのものは2024年に大きく変わりました。測地成果2024では、水準測量で積み上げる方式に加えて、GNSSで測った楕円体高からジオイドモデルを引いて標高を求める方式が土台になりました。「基準面が動いた」のではなく「基準面の表し方が精密になった」変更です。中身は図解 JGD2024 — 緯度経度は変わらない。変わったのは「標高」だけにまとめています。


それでも海面上昇は測地の問題である

標高の数字が変わらないからといって、海面上昇が測量と無関係なわけではありません。むしろ逆です。

  • どれだけ上がったかを測るのが測地の仕事:験潮所の潮位+GNSSによる地盤の上下、この2つの差でしか海面上昇は求められません
  • ハザードマップの浸水想定は標高で描かれる:基準面が固定だからこそ、「いまの海面が基準面から何m上か」を足し込んで浸水域を計算できます
  • 将来、基準を決め直す判断材料になる:基準面と実際の平均海面の差が広がれば、いつかは見直しの議論になります

基準面が動かないことは欠点ではなく、比較の物差しとして固定されていることの利点です。物差しが海と一緒に動いてしまったら、海面上昇そのものを測れません。


GeoPrism JP で見る

GeoPrism JP のジオイドマップでは、同じ地点の楕円体高・ジオイド高・標高の関係と、新旧ジオイドモデルの差を地図上で確かめられます。「高さのゼロがどこにあるのか」を数字ではなく面で見ると、基準面が海ではなく計算された曲面であることが実感できます。

GeoPrism JP のジオイド高比較画面

  • GeoPrism JP: https://apps.apple.com/app/id6780149823

まとめ

  • 標高のゼロは「いまの海面」ではなく、日本水準原点(24.3900m)に固定されている
  • だから海面が上がっても、地図や成果の標高の数字は自動では変わらない
  • 日本沿岸の海面水位は2004〜2025年で年3.5mm上昇(地盤変動を補正した値・2026年2月更新時点)
  • 上昇量を出すには、験潮所の潮位とGNSSによる地盤の上下の両方が要る
  • 原点の値が改定されたのは関東大震災後(24.4140m)と2011年(24.3900m)の2回。いずれも地震が理由
  • 基準面が動かないからこそ、海面の変化を測ることができる

出典

  • 気象庁「日本沿岸の海面水位の長期変化傾向」 https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/shindan/a_1/sl_trend/sl_trend.html
  • 国土地理院「日本水準原点」 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/suijun-genten.html
  • 国土地理院「全国の標高成果の改定」 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/hyoko2024rev.html

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