
緯度経度はなぜ60進法なのか? — 1度=60分=3600秒になった理由と、いま10進度が主流のわけ
答えは「4,000年前のメソポタミアがそう数えていたから」です。 緯度経度の度分秒は、時計の時分秒とまったく同じ起源を持っています。そして「分」「秒」という名前そのものが、当時の計算方法の名残りです。なぜ10でも12でもなく60だったのか、そしてなぜ今の地図データはほとんど10進度なのか——順に見ていきます。
60という数はどこから来たのか
60進法は、メソポタミアのシュメール人・バビロニア人が使っていた数え方です。紀元前2000年ごろには、粘土板に楔形文字で書かれた60進の記数法が使われていました。
彼らが60進法を天文学に用い、星の運行を計算していたことが決定的でした。天文学で使われた単位が、そのまま後世に引き継がれたのです。国立天文台 暦計算室も、時間や角度の単位に60進法が残っているのはこの流れによると説明しています。
だから、こうなります。
| 対象 | 分け方 |
|---|---|
| 時間 | 1時間 = 60分 = 3600秒 |
| 角度(緯度経度) | 1度 = 60分 = 3600秒 |
同じに見えるのは偶然ではなく、同じ出どころだからです。地球が1日で360度回ると考えれば、1時間=15度、4分=1度と、両者はきれいに対応します。この対応関係は、昔の船が時計で経度を測った仕組みそのものです。
なぜ60だったのか — 割り切れる数の多さ
60が選ばれた理由として広く挙げられるのは、約数が多いことです。実際に数えてみます。
| 数 | 約数 | 個数 |
|---|---|---|
| 10 | 1, 2, 5, 10 | 4 |
| 12 | 1, 2, 3, 4, 6, 12 | 6 |
| 60 | 1, 2, 3, 4, 5, 6, 10, 12, 15, 20, 30, 60 | 12 |
| 100 | 1, 2, 4, 5, 10, 20, 25, 50, 100 | 9 |
60は1から6までのすべての自然数で割り切れます。10だと3等分・4等分・6等分がすべて割り切れません。分数の筆算がない時代に、3分の1や6分の1を小数で書かずに済むのは大きな利点でした。60が10と12の最小公倍数であることも、しばしば理由に挙げられます。
円を360度に分けるのも同じ系譜です。360は24個もの約数を持ち、1年の日数(約360日)にも近い。60進法とも相性がよいので、角度の分け方として定着しました。
「分」「秒」という名前は、計算手順の名前だった
ここが面白いところです。「分」「秒」は単位の名前ではなく、もともと「何回目に細かくしたか」を表す言葉でした。
ラテン語で、
- 1回目に細かくした部分 = pars minuta prima(第1の小さい部分)→ minute → 分
- 2回目に細かくした部分 = pars minuta secunda(第2の小さい部分)→ second → 秒
英語の second(秒)が「2番目」と同じ綴りなのは、こういうわけです。「2番目に細かくしたもの」だから second。日本語の「秒」も同じ構造を訳したものです。
つまり度分秒は、1度を60で割り、その結果をもう一度60で割ったという手順が、そのまま単位名になっている表記です。原理的には3番目(1/216000度)も作れますが、そこまで行かずに小数へ切り替えるのが普通になりました。
いま、地図データはほとんど10進度
現代のデータ形式を見ると、度分秒はほとんど姿を消しています。
| 形式 | 座標の書き方 |
|---|---|
| GeoJSON(RFC 7946) | 10進度・WGS84 と仕様で固定 |
| KML | 10進度 |
| Shapefile / GeoPackage | 10進度(測地系は別途定義) |
| NMEA(GNSS受信機の出力) | ddmm.mmmm = 度と「分」の混在 |
理由は単純で、計算機にとって10進度のほうが扱いやすいからです。度分秒は3つの数値の組で、足し算をするたびに繰り上がりの処理が要ります。10進度なら普通の実数として扱えます。
例外がNMEAです。GNSS受信機が吐く文は 3540.8742,N のように、先頭2桁が度、残りが分という独特な形をしています。これを「35.408742度」と読んでしまう取り違えは、実際によく起きます。正しくは 35度40.8742分 = 35.681237度です。度分秒の名残りが、いちばん現代的な機械の出力に残っているのは皮肉な話です。
なお、角度の分け方は60進法だけではありません。ヨーロッパの測量ではグラード(gon)——円を400分割し、直角をちょうど100 gon とする単位——が使われてきました。1 gon = 0.9度です。トータルステーションの角度表示の設定に、いまでも選択肢として残っていることがあります。数学や内部計算ではラジアン(円周が 2π)が標準で、1ラジアンは約57.2958度です。どれが正しいということはなく、目的に合わせて分け方が違うだけです。
1秒はどれくらいの長さか
「秒」という単位の感覚を持っておくと、測地系の資料が読みやすくなります。GRS80楕円体、北緯35度で計算すると次のとおりです。
| 角度 | 南北(緯度方向) | 東西(経度方向・北緯35度) |
|---|---|---|
| 1度 | 約110,941m | 約91,288m |
| 1分 | 約1,849m | 約1,521m |
| 1秒 | 約30.8m | 約25.4m |
| 0.000001度(10進6桁) | 約11cm | 約9cm |
1秒は約30m。これを知っていると、測地系の補正量が「秒」で配られている意味が見えてきます。

たとえば東日本大震災の補正量は最大で緯度経度にして約0.2362秒、メートルに直すと約5.85mです。0.2秒と言われてもピンと来なくても、1秒=約30mを知っていれば「6mくらいか」と即座に変換できます。逆に、10進度で座標を扱うときは「小数6桁で約10cm、7桁で約1cm」と覚えておくと、cm級測位に必要な桁数の判断がつきます。
まとめ
- 緯度経度の60進法は、紀元前2000年ごろのメソポタミアの数え方がそのまま残ったもの。時計の時分秒と同じ起源
- 60が選ばれた大きな理由は約数が12個あり、1〜6のすべてで割り切れること。360度も同じ系譜(約数24個)
- 「分」「秒」はpars minuta prima / secunda(第1・第2の小さい部分)の訳。単位名ではなく手順の名前だった
- 現代の地図データ(GeoJSON・KML・Shapefile)はほぼ10進度。計算機で扱いやすいため
- ただしGNSS受信機のNMEAは
ddmm.mmmmの度と分の混在。10進度と取り違えやすい - 角度の分け方は他にもある(グラード=円を400分割、ラジアン)。目的で使い分けるもの
- 1秒 ≒ 南北30.8m / 東西25.4m(北緯35度)。補正量が秒で書かれた資料を読むときの換算の基準になる
出典
- 暦Wiki/要素/1日とは?/分・秒とは? — 国立天文台 暦計算室: https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/CDD7C1C72F1C6FCA4C8A4CFA1A92FCAACA1A6C9C3A4C8A4CFA1A9.html
- SI Brochure(国際単位系・度分秒はSI併用単位) — BIPM: https://www.bipm.org/en/publications/si-brochure
- RFC 7946 The GeoJSON Format(§4 座標参照系): https://datatracker.ietf.org/doc/html/rfc7946
- 世界測地系 — 国土地理院: https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/datum-main.html
本記事で計算した値(python3 で検算)
| 値 | 根拠 |
|---|---|
| 60の約数12個・360の約数24個 | 総当たりで列挙 |
| 北緯35度 1度=南北約110,941m | GRS80の子午線曲率半径 M(φ)×1° |
| 同 1度=東西約91,288m | GRS80の卯酉線曲率半径 N(φ)×cos(φ)×1° |
| 1秒=約30.8m / 約25.4m | 上記 ÷ 3600 |
| 1 gon = 0.9度 / 1ラジアン ≒ 57.2958度 | 360 ÷ 400 / 180 ÷ π |
次に確認する
- 緯度・経度「1度」は何メートル? — 桁ごとの距離感を、階段状の図で確かめられます
- 昔の船はどうやって経度を知った? — 角度と時間が同じ60進法である意味が、実際の航海で分かります
- 地球一周は何キロ? — 60進法の角度に対して、メートルがどう決められたかの対比です
- 1海里は何メートル? — 「緯度1分」がそのまま長さの単位になった例です
- 度分秒(DMS)と十進度(DD)の相互変換(GeoConverter Pro) — 本記事の「なぜ」に対する、実際の直し方の手順です
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第1章「緯度と経度のきほん」(Kindle Unlimited対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・公開プロジェクトの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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